NHKで大好きだった番組がある。2009年放送開始の、イギリス生まれのベニシアさんの日常を綴った『猫のしっぽカエルの手』である。京都市大原の古民家に夫の正さんと共に手を入れて、広い庭でハーブを育てながら、近隣の人たちとお茶をしたり、ジャムを手作りするなど、田舎ならではのスローライフを楽しんでいた。
緑が鮮やかで、川が流れる。ベニシアさんが散歩がてら畑を見にいったり、知り合いの若い子がカフェを始めると、子供と子供の友達と訪れたり。常に自然に囲まれた彼女の暮らしは僕の心を癒してくれた。
25分枠の中で、ベニシアさんのイギリス英語のナレーションで語られる場面がある。庭木の話、ハーブの話、台所の話、夫の正さんと子供との暮らしなど、様々な事柄について、ゆっくりとイギリス英語独特のイントネーションで、静かに優しく。ぼくはその1分ほどが何にも代え難いくらい大好きで、心が落ち着いてゆくのを感じていた。
このベニシアさんの暮らしに寄り添って流れるのが、日本とスペインで活躍するピアニスト川上ミネさんの奏でる音たち。僕は、どこにも無い彼女のピアノの響きに魅せられた。何年か前には、娘の誕生日に彼女のCDをプレゼントした。
はしゃぎもしないが、つまらないわけでもない。ちょっとだけ。本当にちょっとだけ。小石を蹴飛ばすような。プーさんのクッションほどの小さな水たまりを、心躍らせてぴょんと飛び越えるような。
ベニシアさんは2023年6月に73歳で他界した。川上ミネさんは55歳で、今も活躍している。
ベニシアさんと川上ミネさん。大好きな二人を僕に届けてくれたNHKに心からのお礼を言いたい。