僕は青森ねぶた祭りが大好きだし、この祭りが行われる地が故郷だということを誇りに思う。時々の世相を反映しながら、それぞれのねぶた師は毎年毎年新しい題材でねぶたを作り、町を練り歩く。そして僕たちは、夜の闇に鮮やかに浮かび上がるねぶたを背景にしながら『ラッセラーラッセラー』と掛け声を叫び、輪になって跳ねる。
熱狂的な夜は、地元の人たちのみならず、国内外の観光客をも巻き込んで5日間続く。大型の灯篭人形を中心に、囃子方(はやしかた)も跳人(はねと)も熱く情熱をたぎらせる。
そんな僕が、憧れてやまない、まだ見ぬ祭りがある。
八戸市を中心に、『えんぶり』という豊作祈願の祭りがある。毎年2月17日の早朝に長者山新羅神社に舞を奉納し、その後市街各所で一斉摺り(いっせいずり)を行う。
歴史は古く、鎌倉時代に甲斐国(かいのくに/山梨県)を拠点としていた、清和源氏(せいわげんじ)の流れを汲む南部氏が当地に居を構えた頃からの祭りで、800年以上と言われる。
馬の頭を模した長い烏帽子(えぼし)姿が特徴的だが、足元は藁靴を履き、全体として衣装は決して派手ではない。その大きな烏帽子を腰を曲げて力強く左右に振り、農具から派生した金具付きの杖(ジャンギ)を地面に打ちつけたり擦(こす)ったりしながら、囃子手と唄い手に合わせて舞う。
最大の特徴は、何種類もの舞が地域地域で後継者となる子ども達に伝承されていることである。八戸市内で34組、周辺地域で7組あるえんぶり組が、それぞれ時代と世代を切れ目なく繋いでゆくのは容易なことではない。
舞い手も囃子方も唄い手も、さらにはその家族も子どもも、関わる全ての人々の祭りへの憧れと暖かな春への渇望がどれだけ強いものなのかを窺(うかが)い知ることができる。
じんわりと胸に染み込む舞い、囃子、唄は世代を超え、時代を超えて人々の目に焼きつき耳にこだまして、この地に暮らす喜びと誇りを強く抱かせるに違いない。
原始、祈りから始まった祭りの真の姿がここにある。