犬たちはわんわんと吠え、寂しい時にはクンクンと鳴き、夜には遠吠えをする。カラスはカァカァと鳴き、切羽詰まるとギャァギャァと鳴き叫ぶ。どの動物もそれぞれ意識を持って鳴き声を発している。
人は言葉の文化を持ち、より複雑な表現に成功している。今回は、前回の『火』に続いて進化の起爆剤となった『言語』について書いてみたいと思う。
人類学的には『言語』の獲得はとてつもなく大きな意味を持つ。発生のきっかけや時期、段階など、学術的には様々あり、それぞれに対して賛否があり、面白い。その中のひとつの説があるので紹介したい。
進化の過程では遺伝子の突然変異が欠かせない。昔は、進化といえば環境に適応しようとして生態を変化させる、つまりは遺伝子が後追いで変異するのが進化だと言われていた。しかし現在では、遺伝子が突然変異をして、たまたまその後の環境の変化に順応できる個体群が出現する『適者生存』の考え方が主流であり、納得する。
誰が唱えた何という説なのかは覚えていないが、『言語』を操る能力も遺伝子の突然変異で獲得され、交配を重ねるにつれ、直系子孫の中で拡がり、優先的遺伝子となり今につながるというものだ。だとすれば、かなり以前に起きた変異でなければいけない。現在、文法に関わるとして注目されている遺伝子は、ネアンデルタール人にも既にあるという。これからのさらなる研究を待ちたいと思う。
原人の時代から獲得していたであろう言語を操ることに関係する遺伝子を以って、他の動物のように、感情や危ないなどの状況を示す鳴き声から、物を指し示す名詞の固定化と動詞の固定化が進んでゆく。その後名刺と動詞が結合して最も簡単な文章となる。
『言語』を獲得することにより、人は様々な情報を仲間に伝え、世代がまたがることによって文化として継承されてゆく。単語が多くなるほど表現の幅は広がり、内容は厚みを増す。経験に基づいた『判断』と『知見』はこうして膨らみを増し、やがて文明と呼ばれる大きな波の中で『学問』となる。
ちなみに、人類が操れる関係代名詞の数(文節の垂直連結数)は7個だと記憶していたが、今はどうなのだろう。