(出典;NHK)
アジア大陸の東側に位置する仏教国、ブータン王国をご存知だろうか。世界最高峰のエベレストを擁するヒマラヤ山脈の東端にある。6000メートル級の山々が連なる国土の尾根は美しく、沢山の氷河が存在する。
4、5年ほど前に訪日された国王と王妃の柔らかな佇(たたず)まいに、日本人の持つ奥ゆかしさを感じたのは私だけでは無いだろう。仏教を深く信仰して慎ましやかに穏やかに暮らす国民の姿も見えてくる様だ。
その国王の提案で、あるレースが開催された。2022年に一回目、そして今回、2024年10月に二回目となるスノーマンレースである。平均標高4200m、最高標高5470mの道なき道を、5日間に亘って総延長186km走破する。出場選手は国内のランナー数人と、日本やアメリカを含む全16人。
このレースの目的は、ブータン王国の変わりゆく自然環境を世界の人々に知ってもらうことである。地球温暖化は高地にある国土にも強く影響を与えている。氷河は解けて後退し、氷河湖を肥大させる。いずれ決壊し、流れ出した大量の湖水が下にある村々を飲み込む。既に幾つかの氷河湖が決壊し、甚大な被害を何度ももたらしている。
首相は言う。「そもそもカーボンネガティブな我々が環境の変化を止めることはできないのです。この現状を世界の人達に知ってもらい、対策が進むことを願います」と。CO2排出量の3倍以上の森林吸収率があるプータン。
選手達は皆、ポータブルカメラ持参で撮影しながら、語りながら走り抜ける。
ノルウェーの選手は、過酷とも言える山々の風景と、途中でお茶を勧めるために長時間待ってくれている村人の話をして、嗚咽してしまう。彼らの生活の場を、生活そのものを奪おうとしていながら何もできない事に思い至っているのだろうか。
アメリカの選手は、自分達は快適な生活をし、便利なものに囲まれて、ブータンの人々の様に温暖化を実感できていなかったと。
タンザニアの選手は、母国では『水は命』という言葉があると言った。そして、この国で氷が解けだす速度がゆっくりとなり、『水が命』であり続けられる様にと願っていた。
ドイツの選手は、今までで一番大きいレースだったと語った。村人や子供達と触れ合いゴールした瞬間、とても強く心を揺さぶられたと。これからはもう自分のためにレースに出るのではなく、正しい目的のためにレースに出たいと。
ろれつが回らなくなり、意識も朦朧とする。しかし彼らの心に残るのは辛さや苦しさではない。壮大で美しい自然と、そこで暮らす人々である。
今、選手達はそれぞれSNSなどでプータンの現状を発信している。気候変動対策の必要性や、地球を大切にする事を。
今、トランプ大統領が、石油の増産を煽(あお)り、地球温暖化対策の世界的な枠組みであるパリ協定から離脱すると言う。
愚かで身勝手な政治家にうんざりする。