2年と少し前、妻と娘と3人で北海道旅行を楽しんだ。まだ在職していたこともあり自由になる時間は限られていたが、それでも連休を絡めて3泊4日のスケジュールは確保した。帰ってすぐ翌日に仕事の予定ありきなので窮屈さを感じるが、それもやむを得まい。

 札幌から小樽、そして美瑛、富良野と周った。いつものことながら、旅程を組むのに難儀した。旭川は?帯広は?十勝は?襟裳岬は?と、考え出したらきりが無い。結局は限られた時間の中で効率的に移動できて、旅の要素を詰め込めるルートに落ち着く。


 そんな中、美瑛での一泊は心に強く残っている。『スプウン谷のザワザワ村』での食事をゆっくりと楽しみ、静寂と夜の闇に包まれてぐっすり眠った。


 その美瑛での悲しいニュースが飛び込んだ。先日、観光名所となっていた白樺並木が伐採された。写真を撮ろうと車道に溢れ出る人達。大型の耕作機械が往来するため、危険極まりない行為だ。また、誰もいないアングルを求めて畑の中に足を踏み入れる人達。農作物の生育障害を引き起こす行為。

 町では、窮余(きゅうよ)の策として、30本余りの白樺の木を伐採した。並木が無くなれば平穏が訪れる。反面、この対応を止む無しとしながらも、他にも方法があったのでは無いかと世論は渦巻く。

 オーバーツーリズムによる弊害が全国的に叫ばれる今日、最良な施策は何なのだろう。立て看板を増やし、警備のスタッフを常駐させることなのだろうか。それとも、やむを得ず人気のある場所、景観を消滅させることなのだろうか。答えは出ない。


 この白樺並木を長年に亘って撮影し続けてきた高齢の地元の写真家がぽつりと呟いた。「木が泣いている」と。「白樺の涙」だと。その思いを抱くのは決して彼だけではあるまい。


 美しさ、素晴らしさが仇(あだ)となる。


 やる瀬無い。