(出典:NHK)
今、国際社会での論争は新たな段階に入ったと言って良い。イゾラドに対して、その定義を『文明との未接触』から『隔絶された人々』へと変えた。空に飛行機は飛び、遠くで車は走る。彼ら側からみて決して未接触ではあり得ない。故に、遠くで文明に触れたとしても自分たちの生活を変えずに独立して生活する人々だと再定義された。
国連は、2007年に「先住民の権利」を総会決議で採択した。その中では、いかなる先住民も「孤立したまま暮らす権利」が盛り込まれている。イゾラドのみならず、地球上の3億人を超える先住民族に対する指針が初めて示された。
一方、ブラジルのトランプとして有名な強行政治を貫くルーラ大統領は、先住民の生活、居住権を認めず、開発を重視する強硬政策を発動した。経済的な困窮を解決するためには先住民など排除しても構わないと言う。しかし僕には裏が透けて見える。利益の追求を最優先する開発企業に取り入って政権を安定させようとしているに過ぎない。
抗議活動や裁判を経ながらも、ルーラ大統領は権利を回復して、今も尚その座に留まっている。
NHKの取材班のディレクターは言う。アウレの目が、彼の表情が忘れられないと。上辺では口元に笑みを作るが、その目にはいつも緊張がある。危害を加えない沢山の人と出会っても尚、文明人に対する恐怖がぬぐい切れない。虐殺の体験がいかほどのものだったのか。その恐怖、悲しみ、怒りが忘れられないのだろう。
人は、ひとは、ヒトは、形が同じでも何者か知れない相手に対して、恐れを抱き、全身全霊で防御をする。そして戦う。とても勝てないような相手でも。命を奪われないために。
アウラとアウレの暮らした森を見つけたという。既に開発され牧場になっており、昔の姿はない。
それでも命は生きようとする。
たとえ伴侶がいなくても。
たとえ子孫を残せなくても。
自らの命がある限り。
僕達には彼らを静かに見守る義務がある。
(完;次編は後記)