(出典:NHK)
1987年5月、ブラジルの原生林で二人のイゾラドが保護された。二人が話す言葉は、ほとんどの部族の言葉を理解できる通訳者ですら理解できなかった。まさに、未知の部族である。便宜上、二人はアウルとアウレと名付けられた。じっくりと信頼関係を築き、六ヶ月後にようやく車に乗せ、保護居住区に連れて行く事ができたと言う。
その後、誰とも言葉が通じないアウラとアウレは、トラブルを起こしては各地の保護居住区を転々とし、13ヶ所目でようやく落ち着く事ができた。皮肉なことに、最も急速に文明化が進むアワ族の保護集落だった。
3つの先住民の言葉なら完璧に話すことのできる言語学者ノルバウ・オリベイラ氏は、政府の依頼で早くから二人と接触し、言葉の解明を目指した。政府から報酬が提供されたのは接触当初だけだったが、その後も集落で教師をしながら彼らに寄り添い過ごした。30年近く経ち、名詞を中心に800程の単語は分かるようになったが、未だに、分かっている名詞を繋ぎ合わせて内容を想像していると言う。
アウラの話す事には何度も繰り返される内容があり、『空』『大きな音』『火花』『死』などの単語が頻出する。さらに『お父さん』と聞くと『死』、『お母さん』と聞いても、『子』と聞いても『死』と帰ってくる。そして『ふたり』と『歩く』。
読んでいる皆さんも同じ想像をしていると思う。おそらくだが、大空を飛ぶヘリコプター、そして銃による家族や仲間の死。アウレと二人での逃避行。
発見から25年が過ぎ、アウレが死んだ。病院での治療も虚しく。末期癌だった。
足を痛めてびっこを引いているアウラは既に猟もできす、三度の食事も全て居住区で支給されている。アウラは放送時(2018年)、推定で60〜65歳。一人となったアウラの話す言葉は、現時点で世界中でアウラ自身しか理解する事ができない。もしもアウラがこの世を去ると、一つの部族、一つの言葉がこの世界から消滅する。
(次編につづく)