今年11月の始めにバレエ劇『アレコ』公演が開催された。シャガールが描いた『アレコ』の舞台背景画4枚に囲まれた、青森県立美術館のアレコホールで。会場は広くはない。しかしその空間ではダンサーが躍動し、しなやかに踊り、優しく儚(はかな)げに触れ合う。秀逸の公演だった。
主演を務めた大川航矢さんは青森市出身の32歳。プリンシパルダンサーとして最も充実した年齢と言える。2歳から中学3年まで『アカネバレエ教室』青森教室でレッスンを受け、その後『ボリショイバレエ学校』に入学し、主席で卒業した。在学中から数々のコンクールで金賞に輝き、ウクライナやロシアなど各地の劇団で主役を張った。現在は牧阿佐美バレヱ団のファーストソリストとして活躍している。
そんな大川さんが地元テレビ局で特集されていた。アカネバレエ教室のあかね先生を弘前教室に訪ねる様子や、子供達に指導する様子などが流れ、月に二度はレッスンに訪れたいという本人の言葉をあかね先生が嬉しそうに伝えていた。僕はその言葉の意味を瞬間飲み込めず、理解できた時には驚いてしまった。
バレエダンサーは劇団の公演を軸に予定を組み上げると思う。演目が決まり、レッスンが始まり、個人稽古、合同稽古、最後には通し稽古と大変なのではないかと想像する。そんな中、東京と青森を行ったり来たりするというのだから、思いの強さに感動してしまう。改めて調べてみたところ、12月には『大川航矢さんの無料体験レッスン』が弘前教室と青森教室で10日間も開かれる。
彼が指導に加わることで、レッスンのレベルが更に一段上がることは想像に難くないし、特筆すべきは周辺への影響である。レッスン希望の子供達が増えて、バレエ人口に厚みが増し、その中で切磋琢磨があり、総合的に実力も上がってゆく。
僕が感動した彼のバレエは、観劇した全ての人の心を揺さぶり、親達はまた子供達に伝え、その子供達がバレエに触れる機会を得るのである。
プロ野球巨人軍の王、長嶋選手が野球少年を、三浦カズ選手がサッカー少年を、漫画の『スラムダンク』がバスケットボールを始める子供達を増やしたように。
打ち込めるものを見つけた子供達を応援したい。そしていつか、僕達を感動させて欲しいと思う。