先日、妻と連れ立ってある企画展を観に行った。弘前市立郷土文学館で開催されている『文学紀行〜青森県の温泉』である。開催期間は今年の4月1日から、明けて3月31日までで、以前から行きたいと思っていた。


 全国津々浦々、どこの県でも温泉が沢山ある。中でも青森県は温泉の多い県だ。別府温泉で有名な大分県が一位で、指宿(いぶすき)温泉がある鹿児島県が二位、青森県は六位である。その中でも全国に名が知られている温泉に、幾多の文筆家が訪れている。

 岩木山の麓、嶽(だけ)温泉には、『若い人』や『青い山脈』でなを馳せた弘前市出身の石坂洋次郎。

 青森市の奥座敷、浅虫温泉には、『飢餓海峡』や『金閣炎上』などで知られる福井県出身の水上勉。

 八甲田山系の酸ヶ湯には、『少年讃歌』などで知られる八戸市出身の三浦哲郎。

 下北半島の津軽海峡に面した下風呂には、言わずと知れた井上靖。

 それぞれが、小説であったり紀行文であったり、また温泉を紹介する散文であったりを書き、滞在した。

 大正から昭和にかけて、文筆家は温泉旅館に籠(こも)って作品を書き上げるイメージがあった。世俗のざわめきに煩わされない静かな環境の中で思索に耽(ふけ)った。


 企画展では写真にも感銘した。モノクロの写真には木造の建物しか存在しない。旅館も家々も押し並(な)べて木造で、写ってはいない未舗装の道路と行き交う人々が目に浮かぶようだ。


 大正時代や昭和初期の観光地であり歓楽街である温泉の賑わいに会いに行きませんか。


 会期は令和7年3月31日まで。