大学一年生の後期、やはり原付バイクでは満足できなくなっていた僕は、教習所に通って中型免許を取得した。原付バイクとはいえ二輪車を経験済みだったので、実車も学科もすんなりいけた。実写教習の教官からも褒められた。原付ライダーの友達は誰一人上の免許を取りに行かなかった。
そして、原付バイクを下取りしてもらって125ccのバイクを15万円で手に入れた。YAMAHAのDT125というバイクで、やはりオフローダーみたいなスタイリング。両脚を下ろすと踵が浮く位のサイズ感だ。パワーも違うし、車両速度制限も無く、何より二人乗りできるのが嬉しかった。
僕はツナギとヘルメットを持っていたが、彼女の分はない。早速ツナギとヘルメットを買いに行った。
このバイクに乗り二人で色々なところに出掛けた。実は、原付バイクでたまに二人乗りもしていた。ところがある日、パトカーに注意されて一旦は押して歩いたものの、まだ遠かったのでついもう一度二人乗りをしたら、何と同じパトカーに注意された。違反切符は切られなかったが、この出来事が中型免許を取るきっかけになったのだ。
僕はスピードを楽しむ派ではなかったが、バイクは大好きだった。最初からの累積走行距離が分かるオドメーターはスピードメーターと同じ盤面で、もうひとつの盤面ではエンジンの回転数がわかるタコメーターが単独で付いていた。
オドメーターは100m単位で刻まれてゆく。走るごとにゆっくりとメーターが回ってゆくのを見るのが大好きだった。少しずつ遠くへ、さらに遠くへ。知らない場所に向かう事は新しい自分を発見することに似ていた。このもう少し、少しずつが堪らなかった。
僕はいま、若者からすると完成された人格に思われているのだろうが、自身では決してそうは思えない。まだ新しい何かを知りたくて、新しい、もう少しだけ大きな自分と出会いたいと思っている。
さあ、もう一度でかけよう。もうバイクはないしヘルメットもない。もちろん車はあるけれど、歩いたっていいじゃないか。
少しずつが一番わくわくするのだから。