中学から高校にかけて、トレーナーが流行り始めた。裏側が厚手のタオル地で、表は滑らかな、襟なしのスポーティな服。カジュアルでありながら、中に襟付きシャツを着たりすると、昭和の少年のお出かけ着にもなった。
『VAN』ブランドがものすごい勢いで流行して、アイビールックと呼ばれたトータルファションは、ジーンズやスニーカー、果てはスポーツバックも組み合わせて沢山の雑誌でいつも特集されていた。
同じ生地感で、フードが付いてお腹の部分に左右が通り抜けるポケットになっているパーカーも流行した。お腹のポケットには物を入れない方がいいとしょっちゅう言われたものだ。ポケットが膨らんで垂れ気味になり、シルエットが崩れるからである。
小さい頃、何か物をもらう時によくしていたことがある。服のお腹の下の裾を前方に膨らませるようにして上に持ち上げ、垂れ下がる空間を作る。そこにみかんを5、6個とか栗を10個とか入れてもらうのだ。沢山入れてもらえる様に、思い切り前に伸ばしていた様な気もする。
お礼を言って、落とさない様にゆっくりと家に帰る。どこで何をもらったのかは覚えていないが、しょっちゅうそうしていた様な感じがする。僕にお土産をくれるおじさんおばさんも、そうやって服を伸ばす事に何も言わなかったし、それで服が伸びて着られなくなったという覚えもない。
決して、パーカーのポケットに物を入れてもいいと言っている訳ではない。今となれば、外套であれズボンであれ、ポケットに何か入れて膨らませない方がいいと思っている。そして、裾を持ち上げるポケット方式を肯定するということでもない。
懐かしく、モノクロームの思い出。
ぼんやりと。なのに、一気に遡る時間。
裾を持って頂き物を持って帰る、小さな自分が愛おしい。