子供の頃、母方のおばあちゃんと一緒に暮らしていて、とても可愛がってもらった。大好きだったチョコボールが一箱30円だったが、毎日食べたいだろうと、母からの毎月のお小遣いとは別に月々1000円を貰った。また、母が忙しくて遅くなる日は晩ごはんを作ってくれた。何にしても、いい子だいい子だといつも言ってくれたのが嬉しかった。
ある日、おばあちゃんが「これ何て読むの」と訊いてきた。おばあちゃんは文盲で、自分の名前を書ける程度だったと思う。病院から貰う薬袋に書いてある漢字だったのだが、それは『包帯』だった。すると、僕にお礼を言いながら、楽しそうに紙に字を写し始めた。僕は、こうだよと言って、書き順を教えながらゆっくりと教えてあげた。その日は『包』の字だけを練習して、次の日は『帯』の字を練習した。
その後も、思い出した様に「これなんて読むの」勉強会が始まった。ぽつりぽつりの勉強会は一年くらい続いただろうか。最初に練習した文字は時間が経てば書けなくなってしまう。そして、また教えてあげる。
僕との勉強会で少し字を書ける様になったとか、たくさん字を読めるようになった訳では決してない。僕は気付いていた。おばあちゃんは僕と過ごす時間が楽しいんだと。僕も、にこにこしたおばあちゃんとの時間が好きだった。
おばあちゃんは72歳で亡くなった。
今でこそ、医療の充実などにより80歳まで生きるのは当たり前の様に思うが、当時は70〜75歳が寿命のように感じていた。僕も次第におばあちゃんの亡くなった年齢に近づいていく。
大好きなおばあちゃんに貰った沢山のありがとうの言葉と優しい笑顔。僕も大好きな娘に沢山あげてきた。このありがとうと大好きは、娘の中で暖かく膨らんで、また新しい世代に光を灯すことだろう。娘と接していると、妻と僕からきちんと受け取ってくれているのが伝わってくる。
みんなが幸せになります様に。