もう ずっとずっと昔のものがたり
広い広い 海の真ん中の
小さな小さな島で
若い海亀くんが 島の近くを泳いでいます
息を吸おうと ちょこんと首を上げた時
かわいらくして 優しそうな 陸亀の女の子
海の彼方を見ています
海亀くんは ゆっくり ゆっくり
島に近づきました
海亀くんに気づいた 陸亀の女の子
小首を傾げて 微笑んで
こんにちは と 言いました
海亀くんも 少しはにかんで
こんにちは と 返します
2匹は 大きな木の下で
お話ししながら 休んでいます
陸亀の女の子は 葉っぱを食べています
海亀くんは 葉っぱを食べられません
海藻やクラゲを 食べるのです
海亀くんは ゆっくりと海に向かいます
陸亀の女の子は 泳ぐことができません
木の下で ずっと待っていました
何日か経ち
海亀くんは 陸亀の女の子と
ずっと一緒にいるようになりました
海に食事に行くと 長い間会えないから
海亀くんは 少しずつ体が痩せていって
陸亀の女の子は とても心配でした
やがて 海亀くんは いつもの木の下で
静かに息を引き取りました
今度は 陸亀の女の子が
葉っぱを探しに行かなくなりました
海亀くんと ずっと一緒にいたいから
ふた月経ちました
海亀くんは砂をかぶり 姿はもう見えません
陸亀の女の子は いつもの木の下で
海亀くんの小山の隣で
静かに息を引き取りました
それから 長い長い時が過ぎ
いつもの木の下の 海亀くんがいた場所は
こんもりとした山になり
草が生え 花が咲き 鳥たちが休んでいます
そして その山裾には
小さな こぶのような
陸亀の女の子の小山ができました
何も知らない島のみんなは
その形から 亀の山と呼んでいます
海の真ん中の 小さな小さな島には
暖かい日差しが 優しく降り注ぎ
柔らかい風が 歌う様に吹いています