青い空にエメラルドグリーンの海。開け放した窓から吹き込む風は爽やかで、かすかに波の音が聞こえてくる。そろそろ朝食の時間だ。僕はひと伸びして、妻に声をかける。部屋のキーとスマートフォンを持ち、2人で部屋を出てレストランへと向かった。


 こんな文章で始まる朝を、年に二度は味わいたいと思う。せめて年に一度は。イメージは海沿いのリゾートホテルだが、これが旅館であっても良い。静かに中庭を眺めながらでも構わない。日常を離れて旅行を楽しむ。例え近場でも、たとえ一泊でも。

 3〜40年前には、日本でも開発ブームが起きた。自然が豊かな場所にたくさんのホテルが開業した。オーシャンビューだったり、深い森の中だったり。ゴルフ場を併設したというのも珍しくなかった。

 今、ホテル開発が再燃している。全て新築ということでもなく、今ある箱を使ってリノベーションするホテルも多い。円安効果も相まって外国人観光客が戻ってくるとともに、市場価値が大きく膨らみつつある。


 そんな中、世界的に見ても開発が加速化しているのがインドネシアのバリ島だ。豊かな自然を有し、食の地域性にも特色があり、アジアと海洋諸島の文化が混じり合って醸し出す街の景色は魅力的だ。

 インドネシアの法律では、外国人が土地を所有することを認められていない。借地権は認められているので、立派なホテルが建っても、土地の所有者は複数の農民だったりする。

 土地の借用を巡り争奪戦が繰り広げられる中、土地を貸さずに農業を続けると断った農民が、貴方は馬鹿だと言われたそうである。彼は、大きな事業をしている頭のいい人がいつも正しいとは限らないと語ったそうだ。

 法律では借用の最長期限を80年と定めている。農民達は30〜50年のスパンで土地を貸し出す。借地料が入り、それで生活をする。しかし、次の世代が、一旦農地で無くなったその場所で農業を再開するのは不可能だと言われている。建物を建てるより農地を改めて土地改良して作る方が遥かに難しい。


 僕達は常に利用者側である。綺麗で豪奢な部屋にも憧れる。


 しかしその裏で、決して元に戻せない大切な何かが失われていなかったかを感じられる様でありたい。