遠い遠い北の国
熊がいて 猿がいて クマゲラがいて
ブナの木で賑わう 豊かな森のお話
小さなブナの子が 少し暗い森の中
あちらでも こちらでも そちらでも
今日も一生懸命 背伸びをしています
そこへ 優しい声
ほぅら そぅれ もう少し
伸びろ 高く もう少し
ブナの子たちは 口々に応えます
おばあさん おはようございます
あぁ おはよう
いいよ〜 いいよ〜
また少し 伸びてるよ〜
でも ひとりの子が ポツリと言いました
おばあさん いつも応援ありがとう
でも なかなか伸びないよ
3年経っても これっぽっち
枝の腕組みをしたおばあさん 少し考えて
少し 下を見下ろして
あちらこちらに 枝を振り
お前も お前も お前も
じゅうぶん大きくなったよ
ここまで育てば もう大丈夫ね
今度は少しだけ空を見上げて
そろそろ光が必要ね たくさんの光が
どれ う〜ん う〜ん う〜ん
そのあとも ずっとずっと
おばあさんは力を込めて
う〜ん う〜ん う〜ん
ひと月ほど経った 夏の終わり
めき めき めきっ めきっ
お〜い 子どもたち 気をつけてね
ブナの子たちは なんだか分からず
心配そうに見上げています
ばき ばき ばきーっ
ブナのおばあさんの 太い太い足が折れて
どーーーん と 倒れました
子どもたちを上手に避けた おばあさん
こっちの子も あっちの子も みんな無事
森に ブナの子たちに
光が差し込み 風が吹き込みます
一度は驚いて 飛び立った小鳥たちも
おばあさんの周りに集まって
チッチッチ ケッケッケ と
鳴き合っています
ブナの子たちは 思いました
初めて浴びるお日さまの 明るさ 暖かさ
おばあさんの 優しい声と一緒だと
たくさん流れる風の 爽やかさ 涼やかさ
おばあさんが 優しく枝を振るのと一緒だと
時は流れます
いつからなのか いつまでなのか
そおっと 静かに ゆっくりと
時は流れます