現在の青森市街地は、昔、海だった。山際まで海が入り込んでいた。三内丸山遺跡は山の中にある遺跡と思われがちだが、古代は海岸沿いだった。
時代は進み、海は後退し湿地帯になる。更に時を経て水が捌(は)けた平野になる。
青森市には、沖館、浪館、浜館、古館、牛館、築木館など『館』の字のつく地名が多くある。全国いずれの地も同じなのかなとも思うが、集落を伴う地域小豪族の屋敷のあった事を示すものである。これら『館』のつく地名は、山際沿いに弧を描く様に並ぶ。三内丸山遺跡は、浪館地区に隣接している。
古代に海であり、その後湿地帯となった現在の市街地のへりに並んでいるのは当時の地勢を物語っている。人々の営みが『館』を中心に広がっていたのが目に浮かぶ様だ。
漢字が表す意味で推測できることもあれば、音だけで残ってきた歴史が、漢字に当てはめられて残っていることもある。
青森は津軽海峡を挟んで北海道と近く、中世以前はアイヌの人々と深く交流していた。当然、言葉は容易に混ざり合う。
『内』という漢字は、囲まれた位置関係を表す。その『内』の字がアイヌ語の音に当てはめられた例がある。
アイヌ語では、水のある場所を『ナイ』と言う。青森市内には、奧内、三内、孫内、入内、横内、野内などの地名があり、全ての地域に川がある。『横内』だけは『うち』と発音するが、こちらは『ヨコ』の音に漢字の『横』を当てたものの、漢字で言う訓読みになるため、引っ張られて『内』も訓読みで『うち』と読む様に変化したと思われる。これらの地名も山沿いに弧を描く様に並ぶ。やはり、海が入り込んでいた時代から言い習わされた地名と言える。
他にも『ベツ』はアイヌ語では川を表し、青森市では大別内や原別などがある。また、『シリ』はアイヌ語で山とか、海に対しての陸地を表し、野尻や馬屋尻などがある。全て山極の孤の中にある。
それぞれの地方地方に残る地名には、土地土地の記憶が宿る。こ 地元の地名に想いを馳せるのも悪くない。
古代の地形を感じ地名の由来を想像しただけで、自分の『何某か』に少し近づけた気がしてくるのが不思議である。