小、中学校では単一科目だった理科が、高校になって科目別になった。物理、化学、生物、地学の4科目である。一番成績が良かったのは、まだ希望に燃える一年生で触れた生物だった。満点をとったりしたのは高校時代の僕にしては異例だった。
生物の中で忘れ難い響きで記憶に残っているのが『ミトコンドリア』である。色々忘れても、この響きだけは忘れないという方は多いのではないだろうか。
では、改めてミトコンドリアを考えてみる。授業では、酸素を取り込んで細胞が活動するためのエネルギーを生成する細胞内器官だと習った。
そもそも酸素は危険物質である。色々な物質が酸素と結合する酸化現象は、熱を発するものが少なくない。熱は細胞を焼き殺す。したがって、不用意に酸素を取り込むことは本来は御法度なのだ。
ところがである。ミトコンドリアのおかげで、その危険なはずの酸素を呼吸で取り込み、莫大なエネルギーを得て活発に活動できるのだ。
では、こんな便利な機能をどうやって手に入れたのか。答えはバクテリアである。悠久の昔、核を持つ細胞、真核細胞にミトコンドリアの起源となるバクテリアが入り込んだ。そして細胞内で死ぬことなく共存し(細胞内寄生)、細胞が酸素からエネルギーを得る事ができる様になった。
ミトコンドリアにもDNAがあり、お世話になっている細胞が分裂しなくても、独自に分裂する。ひとつの細胞に数千も存在することもある。
人の体は、色々なバクテリアやウイルスの影響を受けながら進化する。紫外線や細胞分裂時の不具合でDNAが変異し新しい特徴が加わる進化エンジンも当然あるが、ウイルスなど外部要素による進化エンジンも多い。
恐竜の時代、全ての哺乳類の祖先はネズミの様な小動物であり、卵生だった。恐竜に卵を襲われても、自分の命を守る為には卵を置いて逃げざるを得なかった。
ある時、この哺乳類の間でウイルス感染爆発が起きた。このウイルスは細胞に侵入し、細胞の遺伝子の一部をウイルスの遺伝子に書き変えた。この変異が定着して胎盤を獲得した。恐竜に卵を食べられる心配がなく、自らが逃げることにより子を守る事ができる様になったのだ。
未だ知られざる未知のウイルスやバクテリア。人類からすると気が抜けない戦いが続くが、こんなに役に立っていることもあるとは驚きだ。