ある日の朝、小さな小さな台風坊やが生まれました。
下には広い海。
上には明るく輝くお陽さま。
とても気持ちが良くて、雲の腕を震わせて「ん〜っ!」と伸びをすると、海がザワザワと挨拶してくれました。
次の日のその次の日、坊やは少し大きくなりました。上を見るとお陽さまはいつも通り明るく輝いています。
でも。。下の様子が変なのです。前の日のその前の日より、海の色が黒くなって、白い波が大きくぶつかり合っています。
その時、遠くにある大きな台風と雲の腕が触れ合いました。そこで坊やは聞きました。
「大きな台風さん、こんにちは。僕の下に広がる海の様子がどんどん乱暴になっています。どうしてなんですか」
「こんにちは、坊や。それは君が大きくなったからだよ。体の力でもっと風を吹かせてもっと雨を降らせてしまうからだよ。私たちは暖かい海の上でどんどん大きくなるからね」
坊やは考えました。そして反対に伸びている雲の腕で、暖かい海と触れ合いました。
「海さん。こんにちは。」
「やぁ!坊やか。こんにちは」
「暖かい海さんのおかげで、僕たちが大きくなるって聞きました」
「そうだね。私たちが暖かいと君たちは大きく元気になるんだよ」
「今、僕の下の海さんは荒れて、島の木々や山々が壊れてしまうのが悲しくて」
「なんて言ったかな。。そうだ、人間だ。人間が好き勝手な事ばかりしていて、海が暖かくなりすぎたんだよ」
坊やはまた考えました。そして心の中でつぶやきました。
「僕のせいで。もう、壊すのは嫌だな」
悲しくて、涙が溢れます。
そうすると、またまた雨も風も強くなるのです。その時、思いつきました。
「もしかして、冷たい海の上だとこれ以上大きくならないかも」
坊やは力を振りしぼって北を目指しました。一生懸命に少しずつ。北へ。北へ。
次の日のその次の日。ふと下を見ると海が優しくなっています。そして、自分の体がだいぶ小さくなったのに気づきました。
台風坊やは喜びました。海が真っ青なのです。見上げる空と同じ輝きの海を、生まれて初めて見ることができたのですから。
「良かった。全部優しくてキラキラしてる」
坊やは疲れていました。もう考えることも話すこともできません。
小さな小さなあくびをして、眠りにつきました。
赤ちゃんよりも、もっともっと小さな雲のかけらになって。