子供の頃から食べている郷土料理は何よりほっとする味である。たまに県外に出だ時に、地元だけの料理だと気付くことも多い。


 青森であれば、大きな帆立の貝殻に具材を入れて卵でとじる『貝焼き味噌』が有名だ。他にも、根菜や山菜、凍み豆腐などを細かく刻んで出汁と味噌で煮込む『けの汁』もある。

 この『けの汁』は秋田県では『きゃの汁』と言うらしい。秋田県には、全国区の『きりたんぽ鍋』がある。さらに、たくあんを燻(いぶ)す『いぶりがっこ』も。

 岩手県では山菜や根菜などとともに、練った小麦粉を千切って入れる『ひっつみ』。宮城県でも、やはり里芋を含む根菜やきのこ類を煮込む『おくずかけ』。山形では、刻んだ野菜やキノコとねばり昆布を出汁と醤油で混ぜ、ねばねばになった状態で完成の『だし』という料理がある。ご飯が進む君である。そして、全国区レベルで有名な、里芋を使った『芋煮』。

 昔からの食材である根菜やきのこ類を煮込む料理は、全国どこでも郷土料理として存在することだろう。


 そんな中、青森県の『貝焼き味噌』は異彩を放つ。帆立は、粒の大きさにもよるが大体1個200円前後。帆立の貝殻に出汁を注ぎ味噌を溶く。帆立を一個入れてあとは長ねぎ、時には麩を入れたりもする。そして卵でとじる。それほど高級料理ということではない。

 これがとてつもなく美味しい。お酒のアテとしても、当然、おかずとして食べても間違いない。帆立が豊かな青森だけの料理のようだ。果たして皆さんの頭の中に、『貝焼き味噌』の正しい姿は届いているのだろうか。

 六角精児さんがNHKの『飲み鉄本線日本旅』で訪れた五所川原市の居酒屋で食べた『貝焼き味噌』が忘れられなくて、7〜8年の時を経て、今年『飲み鉄旅』で同じ店を再び訪れた。

 是非とも皆さんにも食べて頂きたいと強く思う。


 ちなみに、『たまご味噌』という料理もある。アルマイトの耳付き鍋で煮る事が多いが、出汁に味噌を溶かして、具材は入っても長ねぎだけで、卵でとじる。『貝焼き味噌』の具無し版である。

 風邪を引いて寝込んで食欲が落ちると、お粥と一緒に必ずこの卵味噌が出てきたものだ。食べ物から力を取り込まないといけない時、必ずである。お肉でもなくお魚でもなく、消化の良い温かく優しい料理。


 僕が熱を出して食べると兄弟が羨む、そんなご馳走だった。


 あっ。そうそう。母はいつも話していた。この子は熱を出しても食欲が落ちないねと。