青森市には、2021年7月に世界文化遺産に登録された『北海道・北東北の縄文遺跡群』の中心遺跡、三内丸山遺跡がある。修学旅行先にもなっているので、訪れたことのある方も多いと思う。

 再現された建物で一番有名なのは、六本柱建物だろう。六本の太い支柱に三層の床構造を備えた建物として復元されている。古代、集落のすぐ近くまで青森湾が入り込んでいたので、海を見渡し、集落を見渡し、また、海から向かってくる舟にとっては格好の目印であったことは想像に難くない。


 復元遺構の中に竪穴式住居がある。子供の頃にどこかの施設で見たことがあり、粗末な材料で簡素に作られた様に思えて、こんな家には住みたくないと感じたものだ。今思えば、不見識で身勝手な感想である。人々にとっては、雨風を凌ぎ家族で暖を取れる、立派なプライベート空間なのだから。

 竪穴式住居に暮らし、集落全体で力を合わせて食べ物を調達する。そして交易によって得た物も含めて、様々な装飾品を作り出す。加えて、共有の大きな建物も作り上げる。見事な『暮らし』であり社会である。


 では、現代の日本人はどうだろう。仕事でお金を稼ぎ、日々食事をして生きる。多少の余裕があれば服を買い装飾品も買うだろう。そして、結婚や子供たちがきっかけになる事が多いと思うが、マイホームを購入する。一番の贅沢というより、一生の棲家(すみか)という安心を手に入れるのである。


 さて、日本の近年と近未来はどうだろう。仕事に対する対価が増えず、あらゆるものが値上がりし、結果、どこかを削らなければいけない時代になっている。その終着点が、多くの人が自分の棲家を手にする事ができない時代である。

 いま、不動産価格が都市部を中心として、バブルの要素を含みながら高騰している。しかし、このバブルは弾けない可能性が高い。海外資本や海外投資が入り込んでいるためだ。このままの価格で市場が落ち着いたらどうなるだろう。想像するのもおぞましい。

 都市への人口流入は今なお凄まじい勢いで続いている。地方に未来を見出すためには地方に多くの仕事がなければならない。全ての地方都市に活路を見出そうとするならば、それなりの起爆剤は必要だろう。例えば首都機能の分散化であり、例えば特定の地域に集中する第二次産業立地の分散化、例えば先進専門診療科をもつ大型病院の分散化であろう。当然、農漁業への施策も必要不可欠である。


 声高に必要性を訴える各政党、各政治家。もう何十年も無駄にしてますよ。


 急がなければならない。転げ始めているこの坂は、底までもう僅かなのだから。