雨が降ると時折思い出す子供の頃のシーンがある。二階の窓から外を眺めている。雨足は強く、耳の奥で響いている。障子と窓ガラスとの間の下張りの板に、膝を抱えて座っている。ずっと一方向を見て誰かの帰りを待っている。誰をなのかは分からない。けれど、焦がれて待っているのは間違いない。3歳頃の記憶。


 雨は、様々な感情を呼び起こす。晴れた日が続いて降る雨は、農家さんにとっては恵みの雨になると納得したり。出かける直前に降る雨は、裾と足元が心配になって服装を考え直したり。家の中で聞く雨音は、心を穏やかにしてくれる。


 少し前、生き物の番組でアメンボが特集されていた。アメンボは空も飛べるし、歩いて移動することもできる。なので、雨上がりの少し大きめの水溜まりにいきなり湧いて出てくるのではないのだそう。今考えると至極当然だが、子供の頃は不思議で堪らなかった。アメンボは水鏡を滑って移動するしかできないと思い込んでいた。


 蛙が鳴くと雨が降る。燕が低く飛ぶとやはりその後雨が降る。逆に、雨が止み、羽虫が飛び始めると、当分雨は降らないなどなど。動物や虫たちはしっかりと自然と繋がって生きている。

 ところが大都市、地方都市に限らず、ほとんどの人々は一週間という区切りで生活を刻む。災害の危険が迫らない限り、仕事の時間はやってくる。職業柄、日勤と夜勤を繰り返す人々も多い。そして電車や車での移動。自然の流れ、自然のリズムに従って生きられなくなった。


 最近、アメンボを見かけない。もう何十年も見ていない様にも感じる。雨上がりに水溜りを避けながら『歩く』こともないからだろうか。たまに足元でスーイスイと滑っているのに、僕が気づいていないだけなのか。


 皆さんは最近アメンボを見かけましたか。