「恋しくて…」


*20*



「一緒に俺と帰るんだ、韓国に・・・」


静かな部屋にテギョンの声だけが響く。
テギョンらしい命令口調なのに、ミニョを強く抱き締めている腕が、切実な願いにも聞こえる。

「オットケ・・・」(どうしよう…)

ミニョの声が、肩が、身体が震えてる。

「オッ・・ト・ケ・・・」

ヒック…ヒック…としゃくりあげながら子供のようにミニョが泣いてる。

「おい、返事は?一緒に帰るんだろ?」

テギョンは、ミニョが感激のあまりに泣いてるのだと思っていた。

が、

ミニョは首を横に振った。

「一緒に帰れません・・・ごめんなさい」

「はい」というひとつ返事でミニョが、一緒に帰れると思っていたが、答えは違っていた。
ミニョの身体を離し肩を掴むと、ミニョの身体を自分の方に向かせた。
涙目のミニョに映ったテギョンの顔は、口は尖っているし、目もなんだか恐い。

「はぁ!?何故だ?理由を聞かせろ!!お前の分のチケットも買ったんだぞ!」

と、テギョンがコートのポケットから取り出したの航空便のチケットが入った封筒だった。

「すごく、すごく、ヒョンニムの言葉が嬉しいんです、でも・・・一緒には、帰れません。」

まただ、だとテギョンは思った。
ミニョは頑固なんだ。
高熱を出して病院に連れていっても、自分の身分がバレるからと行こうとしなかった。
そうと決めたら、コイツは梃子でも動かない。
あの天下のテギョンでも頭を抱えてしまうくらいに…。

「なんで、お前はそんなに頑固なんだ」

テギョンは深い溜め息を吐いた。

「今、ここで帰ってしまったら、後悔します。
全てが、中途半端になってしまう。
今の仕事を投げ出すことは出来ないです。
雇ってくれたソンミンさんにも申し訳ないです。
それに、自分の足で立てるようになったから、もう少し、自分が納得するまでは帰れません。」

ミニョが迷いもない真っ直ぐとした眼差しでテギョンを見る。

「・・・・お前だけだぞ。この俺にそんな口を叩けるのは・・・」

テギョンはもう一度深い溜め息を吐くと、ミニョの頬を思いっきり両手で潰した。

「いひゃいでふ、ひょんひむ」

「また、ヒョンニム呼びになってるぞ。」

クスクス笑ってるテギョンの屈託のない笑顔が近づいて、頬を潰されヒヨコみたいな口のミニョは、ドキリと胸が高鳴る。

"その笑顔は反則よ…"

「オッパぁ、いひゃいでふ」

「はぁ、お前ってヤツは・・・」

なぜか、テギョンにまた溜め息を吐かれ、ミニョはヒヨコのまま、テギョンにキスをされた。





★★★★★





「恋しくて…」

*19*



お腹が満たされたミニョは、食後のコーヒーを飲んでいた。

「今日は、忙しかったのか?」

「そうですね、ファッション誌は特に。でも、楽しいですよ、撮影は大変ですけど、充実感はありますから。」

疲れているはずなのに、ミニョは満足げな笑みをみせる。テギョンは、その表情に少し驚いていた。最初に出会った頃は、ミニョは世間知らずのシスターだった。こちらが苛々してしまうくらいに、いつも失敗やドジを繰り返し、オドオドと挙動不審だった。
韓国を離れて2年以上の月日が流れ、テギョンと離れている間に、ミニョは随分と逞しくなったようだ。

「はぁ、お腹いっぱい。ごちそうさまでした。
これから、どうしますか?」

「話があると言っただろ?場所を変える」

 テギョンは立ち上がり、ミニョの手を握れば、驚いたように目を丸くし、すぐに頬を紅く染める。

逞しくなったと感じても、相変わらず、こういうことには慣れないんだな・・・

ミニョの初々しい態度にテギョンは自然と笑ってしまう口元を拳で隠しながら、ふたりは店を出た。



テギョンの足はミニョのアパートに向かっていた。螺旋階段を上り、ミニョの部屋の前に立つと、鍵を開けるよう首を動かす。
ミニョが鍵を開け、部屋の灯りを点けると、テギョンを中に入れた。
部屋の中は冷えきっていて、ミニョは、ストーブに火を点け、水を入れたケトルをストーブの上に置く。
ミニョはベッドルームからブランケットを持ち出し、ソファに座るテギョンに差し出すと、テギョンはミニョの差し出した腕ごと引っ張った。

「あの、部屋が暖かくなるまで、使って・・キャッ!?」

驚きの声とともに、ミニョはテギョンの腕の中に引き込まれる。

「この方が暖かいだろ?」

ミニョが顔を上げると、ニヤリと口角を上げたテギョンの顔があった。

「あ、あ、あ、あの・・・・・」

「おい、暴れるな」

あたふたするミニョの背中を抱き込み、テギョンはふたりの身体ごとブランケットで包んだ。
密着する身体は、じんわりと暖かい。
そして、ふんわりと鼻孔を擽るミニョの香り。
やっと大人しくなったミニョは、固まったように動かなくなり、耳まで真っ赤にしている。

「・・・・一緒に帰ろう」

テギョンはミニョの身体を更に強く抱き締める。

「ミニョ、俺と一緒に帰るんだ、韓国に・・・」






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|ョω・`)ハイ、ひょっこりはん!
はい、すみません。
秋になるとなぜか創作意欲が出てくるヒトです。約1年ぶりですね。ご無沙汰してます。
読んでくださってる方って、まだいるのかしら?
ハナシの描き方をすっかり忘れてしまいましたが、描いてみました。
そろそろ完結させたいけど、出来るかな…。










「恋しくて…」

 *18*

A.N.JELLたちが、久々の休暇を楽しんでいるとき、ミニョは撮影スタジオにいた。
今日はファッション雑誌の撮影だ。
ファッション界は季節を先取りしているため、モデルたちの衣装は、春を思わせる華やかなカラーだった。
ミニョはアシスタントとして、小道具の準備などでスタジオを走り回っていた。
撮影は順調に進み、夕刻過ぎに終了した。
スタジオの後片付けをし、事務所を出る頃には、外はすでに暗くなっていた。

ミニョは、撮影中、オフにしていた携帯電話の電源を入れた。
昨日、登録したテギョンの番号に電話をかける。

「もしもし?」

テギョンに電話をするのも久々だった。
テギョンの低音の声が耳に響くのが、緊張もしていたが、なんだか擽ったくも感じる。

「もしもし、コ・ミニョです。遅くなってすみません。今、仕事が終わって、事務所を出たところです。」

「あぁ、わかった。迎えに行くか?」

「いいえ、大丈夫です。私のアパートの近くにダイナーがあるので、そこで待っていただけますか?」

「わかった。」

テギョンが先にダイナーに到着し、ほどなくして、ミニョが遅れて、ダイナーに到着すると、
ウィンドウガラスから、テギョンが席に座っている姿を確認した。
珍しく、伊達メガネだろうか、黒縁メガネをして、本を読んでいた。
"その何気ない姿ですら、絵になるんだよね、カメラがあったら、写真撮りたいくらい…それに比べて、私は…”

ウィンドウガラスに映るボサボサになった頭に気づいて、ミニョは溜め息を吐き、束ねた髪をほどいた。
今日は、ノーメイクだし、服も動きやすさを重視した格好だから、全然、洒落っ気も何もない。
”せめて、メイクくらい、してこればよかったわ…”
また大きな溜め息がひとつ。

コンコン

ガラスを叩く音に気付き、ミニョが顔を上げると、テギョンと顔が合った。
何故か、テギョンは不機嫌そうに口を尖らしている。そして、長い指をダイナーの入口方向にビシッと差していた。

「あ、あ、ご、ごめんなさい。」

テギョンを待たしていたことに気付き、ミニョは、急いで、ダイナーに入り、テギョンの座っている席に向かう。

「何をひとりで、ウィンドウガラスを相手に百面相してるんだ、お前は!?」

「ごめんなさい」

「で、腹は、減ってないのか?」

「あ、ああ、はい、何か、頼んできますね。」

ミニョが立ち上がろうとすると、テギョンが動きを制した。

「お前は、座ってろ。何が食べたい?」

「あ、ありがとうございます。じゃあ、ハンバーガーセットで」

相変わらず、ミニョは、よく食べるヤツだった。

「テギョンさんは、食べなくても大丈夫ですか?」

「それ見てるだけで、腹いっぱいだ。」

さすが、アメリカサイズ。
バンズからはみ出した野菜や脂が落ちるジューシーな肉は、見てるだけでテギョンは胃もたれがしそうだった。
それでも、幸せそうな顔で食べるミニョを見るのは、悪くなかった。
たまに、ポテトを摘まみ、ミニョを盗み見ながら、テギョンは、にんまりと弛む顔を隠して、ミニョの食事が終わるまで、本を読んでいた。




★★★★★

皆様、ご無沙汰しております。
だいぶ、朝夜が、過ごしやすい季節になりましたね。
秋のせいでしょうか、金木犀のなんとも言えない香りやら、秋風に愁いて、創作活動が沸いてきました。
私の中で、テギョンさんとミニョちゃんが動いてくれるときは、頑張ってハナシを進ませていきたいと思います。
久々なので、グタグタの駄文をお許しくださいませ。
それでは、また。
よろしくお願いいたします。