翌日のオットは、さらにおとなしかった。相変わらず他人行儀なワタシに、下手に出て昼ご飯まで作ってくれる。もう、遅いんだよ。
仕事の準備も再会したようで、あちこちに電話をかけたりしていた。
そして夜。ワタシが夕飯の支度をしながら、先に犬に食べさせるものを用意していた。今日はステーキである。と言っても、安いオーストラリア産をさらにタイムサービスで値引きしてあったやつ。
人間の夕食はイクラのおろし和えや納豆とアボカドのサラダなどつまみを数品とゲソのネギ塩焼き。それを見てオットは、「犬がステーキなのに、人間はゲソかよ」と言う。
ゲソは国産だから、原価はステーキより高いんだよっ。
「イヤなら食べなかったら」
そう言うと、オットは
「そういう意味で言ったんじゃない」
と言いながら、決まり悪そうに食べていた。
この日は、昼寝をしていたくせに「昨日は犬に何度も起こされて眠い」と、食後すぐ寝てしまう。
翌日は、さらに機嫌が良くなっていた。おそらく商工会へ行き、仕事の準備をする。途中で、先日一人で行った別荘のAさんが「近くまで来たから」と立ち寄られた。おそらく、様子を覗きに来てくださったんだろう。
ワタシがコーヒーを出すと、オットは普通に会話していた。ワタシもAさんに心配かけちゃいけないから、普通に応対してたけれど。
Aさんは帰り際、ワタシに「また遊びに来てよ」。おそらく気を遣ってのことだろう。ったく、他人のほうが優しいんだよ。Aさんが帰った後のオットは、仕事の準備と散歩。そして夕食。今日はこれ見よがしなステーキである。もちろん人間のは国産だ。それを黙って食べるオット。
何とか言えよ。
食事中に電話が鳴る。出ると義母からだった。あの日、すぐにネットで注文したケーキとプレゼントが届いたようである。「遅くなってすいません」と詫びながら世間話をしてオットに替わった。
オットは、「あんまり調子は良くない。景気も悪いし」と愚痴をこぼしている。そして実家のツテで組合から借金できないか聞いている。今、現状でも、ワタシ以外に数百万の借金があるのに、これ以上借りてどうやって返すのか。実家のほうはツテがないらしく、不幸中の幸いだったが。
電話を来たオットは、ワタシに「ありがとう」と蚊の鳴くような声で言う。
それも遅いんだよっ
しばらくして
「テレビ見たいから、買ってよろしいでしょうか。ワタシの小遣いで」
と聞けば、気まずそうに
「どうぞ」
続けて
「ところで、あのゴミはいつ片付けてもらえるんですか?」
「大型ゴミの回収に電話してくれ」
「イヤ」
そう答えるとムッとするオット。
「どうしてワタシが手続きして、片付けてもらわなきゃいけないのよ。あんたが壊したものを。電話したところで、コンビニでチケットを買って、決められた日の朝に表へ出さないといけないんだから。そこまでできない。ワタシが電話したら、チケットを買うことからあんたがやってくれるっていうの」
「・・・悪いとは思ってるけど、腹が立ったら抑えきれなくなるんだよ・・・・」
答になっていない。
「とにかく、来週の半ばには家で打ち合わせがあるから、それまでに片付けて。電話だけはしておくから」
そう言うとオットはうなだれ、もう食事にも箸を付けなくなった。半分も食べていないステーキにラップをかけ、自分の食器だけシンクへ置きにいく。ワタシが立ち上がって洗うと、それを拭いて片付け、そそくさと寝てしまった。
シオシオしたところで、やったことや言ったことは白紙に戻らないんだぞ。
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