「そんな・・・今日のはお世話になってる人の主催だし。先月も先週も、わざわざワタシのために開いてくれた集まりだったんだからキャンセルなんかできないって」
ワタシが言い終わらないうちに、オットは飲みかけで置いてあったテーブルの上のマグカップをワタシに投げてきた。除けそこね、脇腹に当たって痛い。床は一面、水浸しである。
「それなら集まりが済んだら、すぐ帰ってくることもできたはずだ。先月だって、オレはな、自殺しようってところまで思い詰めて家を出たのに、お前はその間、遊んでて。本当に自分が悪いと思ってるなら、集まりが済んだら夜行バスででも帰って来れたはずだ。なのにめいっぱい泊まって遊んできて」
プライベートではものすごく久しぶりの遠出。それもわずか3日間家を空けただけなのに、飛行機やホテルもキャンセルして帰ってこいってか。万一、あのとき帰ってたとしても、おそらくオットは別の理由でワタシをなじっただろうと思うが。
「じゃあ、これからどうしたら気が済むの?」
「そんなこと自分で考えろ、オレに聞くな。そういうことを言うことからして、お前は悪いと思ってないだろう。オレはお前のせいで、もう修復不可能なところまで壊れてしまったのに、お前は平然としている」
「わかりました。じゃあとりあえず犬を散歩へ連れて行きます」
まともに受け答えする気力もなくて、そう応えたワタシ。
オットは、仁王立ちで怒鳴り散らしているだけではなかった。
ワタシが帰ってまず見たのは、リビングに散乱する新聞や倒れたイス。テレビ台からひっくり返ったテレビ。
そして庭に面した掃出し窓が開け放たれ、部屋の隅に置いてあった古いマッサージイスが投げ捨ててあり、缶ビールを冷やす小型冷蔵庫もころがっていた。
猫の額ほどのどうってことない庭だが、いくつか置いてある鉢植えがひっくり返り、マッサージイスや冷蔵庫の重みでくちゃっとなっている。ハハがパンジーを植えたプランターもひっくり返り、庭中に土が散乱している。長い間葉っぱだけだったツワブキがようやくつぼみをつけ、小さくな黄色い花を咲かせてたところだった。それもプランターの土と冷蔵庫の下で潰れている。
掃き出し窓に掛けたカーテンは、フックが引きちぎられてだらんと垂れ下がっていた。
そこへ、ワタシの気の抜けた返答を聞いたオットは、ひっくり返ったテレビを持ち上げ、それも庭に投げ捨てた。ワタシが友だちから貰ったものだが、ブラウン管式なので重い。それを真っ赤な顔をして、額に青筋を浮き出させて持ち上げ、庭へ放り投げたのだ。
「やめてよ」
と止めたが、オットの耳に入るはずもない。
「オレはテレビなんか見ないんだよ。だからこんなもの、要らないんだよっ」
そう言いながら納戸から自分が以前トレーニングに使っていた棒を取り出し、スリッパのまま庭に下りる。そして投げ捨てたテレビを壊し始めた。
ブラウン管が割れる、派手な音がする。
自分でも言っているが、もう完全に壊れてるんだろう、オットも。
止めても止まらないな。そう思ったワタシは、犬を連れて表へ出た。
犬を散歩させながら、カウンセラーの友だちに電話をかけ、話を聞いてもらう。友だちもは心配してくれ、親身に話を聞いてくれたからちょっと気が楽になった。
小一時間ほどして戻ると、オットはソーセージや例のシチューで酒を飲んだらしく、シンクに汚れた食器が置いてあった。代わりに、食器カゴに置いてあった空いたペットボトルやプリンカップ、貰い物のグラスなどが捨ててあった。そしてオットは、テーブルに突っ伏している。
暴れるだけ暴れて、落ち着いたのか。
ワタシは無視して、そのへんを片付け始めた。
オットはその音で目を覚まし、そのまま2階へ上がって寝てしまった。
あたりはめちゃくちゃだ。廃屋か、ゴミ廃棄場みたいである。
庭へ下りたスリッパで歩き回ったらしく、床は泥だらけ。カーテンのフックは散らばり、マッサージイスを倒すときにでも使ったのか、納戸から出したロープが散らかっていた。
・・・・これで首でもくくれば良かったのに。正直、そう思った。
とりあえず室内を片付け、床の泥を拭き掃除する。オットはスリッパのまま2階へ上がったので、階段から廊下も泥まみれだった。すべてきれいにして、一息ついたらもう時計は8時半を回っていた。
庭も凄惨な状況だが、これを片付ける力はない。しかも昨日の食器の破片が残っているし、今日のテレビの破片が増えているし、ヘタに触るとケガをしそうなので放っておいた。
しかし、これでも「オレは家族には手を上げない、DV亭主じゃない」と言い張れるのかね。
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