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 それは1982年のある日の事であった。
 ギシン星の宮殿にて、科学長官のイデアが、ズール皇帝によって呼び出されていた。
「ところでイデア」
 ズールがおもむろに言った。
「双子の一人をわしにくれぬか? わしの息子として地球に送り出したいのだ」
 予想もしない申し出に、イデアは新たな怒りがこみ上げて来ていた。
「迷う事はあるまい。やがてはギシン星に戻り、わしの後を継ぎ支配者となるのだ」
「しかし皇帝――! 私の開発した反陽子エネルギーはギシン星だけでなく、宇宙の全ての星で平和的に利用するための物です。我が子も宇宙の平和のために働けるのでしたら、喜んで差し上げましょう。しかし反陽子エネルギーを爆弾に代えた上に、我が子をそれの作動者として使われるのは――!」
 決然と拒否の態度を示した。
「黙れーっ! 科学長官の分際でわしの願いを拒否するつもりか――! 地球はやがて我がギシン星を脅かす存在になるかも知れぬのだ。危険な芽は早く摘んでおかなくてはならない!」
「しかし皇帝!」
「ええい、下がれ! わしの命令に逆らったらどうなるか、よーく考えて来い!」
 宮殿を退出するイデアの心はいたく重かった。宇宙での平和的利用を考えて作り出した反陽子エネルギーを爆弾化した上で、その作動者として息子を使おうとは――! ギシン星の危険はむしろそうしたズールの心の中にあるとさえ思うのだ。しかしイデアは自宅へ戻った時、新たな衝撃に打ちのめされたのだ。
「あなた! マーズが――! マーズが兵隊達に――!」
 アイーダが蒼褪め、泣き出しそうになって抱き付いて来た。揺りかごからマーグの泣き声が火のついたように激しく聞こえて来る。もう何が起こったのかイデアには呑み込めた。ズールのやりそうな事である。マーズは奪い去られてしまったのだ。
「危険が迫っている。今のうちに私の全てを記憶として伝えておきたい」
 イデアはマーグを抱き上げると、地下の研究室に連れて行き、ある寝台へ寝かせると記憶の伝達装置をセットして行った。赤ん坊のマーグに全ての記憶が伝えられて行ったのであった。

 小説版から写しただけです。