「中国vs米国 対照的な経済成長率」 | 太田忠の縦横無尽

「中国vs米国 対照的な経済成長率」

  米連邦準備理事会(FRB)の金融政策を巡って世界の株価が揺れ動いている。株価にとって最も重要な金融政策。「今、我々はマーケットサイクルのどの地点にいるのか?」「今後どうなるのか?」については次回に譲るとして、今回は経済にフォーカスした話をしてみたい。

 

 

20211012月のGDP(実質国内総生産)が相次いで発表されたが、「中国の減速vs米国の高成長」という対照的な構図になっているので、ここで投資家として整理してきちんと理解しておきたい。

 

まずは中国。前年同期比+4.0%79月の+4.9%から鈍化。新型コロナウイルスの感染を徹底して抑え込む「ゼロコロナ」政策が経済活動の足かせになっている。2021年通年での成長率は+8.1%2011年の+9.6%以来の高さであったが、土壇場において失速した形だ。実は+8.1%の数字もそれ自体はあまり意味がなく、このうち+6.3%分は新型コロナ直撃で低成長となった20年の反動増。すなわち実質的には+1.8%程度の成長に留まった。

 

 

今、中国では「ゼロコロナ」対策で厳しい行動規制が敷かれている。省をまたぐ旅行や出張は制限され、ご存じだと思うが西安市などでは都市封鎖さえおこなわれている。当然ながら外食や旅行、物流といった分野が打撃を受けており、12月の小売売上高も前月比で減少に転じた。さらに中国政府が推し進める不動産への規制強化も大きなブレーキとなってのしかかっている。中国政府は雇用政策を重視しているが、これが振るわない。21年の都市部での新規雇用は1269万人。前年より+7%となったが、単月ベースで見ると12月まで4カ月連続で前年同月を下回り、特に12月は3割近くの減少だ。

 

 

一方、米国の20211012月のGDP+6.9%と市場予想+5.5%を上回った。2021年は巨額の財政出動やワクチンの普及で経済活動が再開し、13月期、46月期はともに+6%台の伸び。79月期は変異型ウイルス「デルタ型」の感染拡大で+2.3%と減速したものの、最後に大きく持ち直した。21年通年の成長率は+5.7%20年の-3.4%から大きく回復した。

 

 

米国における成長の原動力は、やはりGDP7割を占める個人消費である(日本の6割よりも大きい)。1012月期は前期比+3.3%となり、79月期の+2.0%から加速。中国とは対照的な動きである。11月から前倒しスタートの年末商戦も好調だった。米国政府が個人向けにおこなった現金給付による「過剰貯蓄」は2.6兆ドルに膨れ上がり、何とGDP1割強に相当。潤沢な現金が消費を後押しした。一方、失業率は12月に3.9%まで低下し、平均時給も前年同月比4.7%上昇した。労働市場の逼迫がよくわかる。

 

 

 中国の場合、2213月もゼロコロナ政策が経済活動の足を引っ張る。天津市や北京市で相次いで「オミクロン型」コロナウイルスの感染者が見つかり、上海市や深圳市にも広がっている。24日の北京冬季五輪の開幕を控えて、政府は厳戒態勢を敷いている。トヨタ自動車などの自動車メーカーの工場がある天津市では操業休止を余儀なくされた。天津港では輸入品を中心に通関や積み荷などの業務が停滞、隣接する北京への物流も支障をきたしていると報じられている。

 

 

さらに多くの地方政府では21日の春節(旧正月)前後の休暇において、帰省や旅行の自粛を呼びかけている。中国政府は春節を挟む40日間の旅客数は延べ118000万人と予想。新型コロナ前の約4割にとどまるが、実際の旅客数はさらに下振れする可能性が大きい。1年前も政府が帰省の自粛を求めて当初17億人と予想したが、結果は約半分の87000万人だった。春節が書き入れ時の陸空運、飲食、宿泊業へのダメージは大きい。


 

各国の中央銀行が金融緩和から金融正常化に向けて動き出す中、中国人民銀行は政策金利(市中銀行に1年間資金を貸し出す際の金利)を12月に続いて1月も2カ月連続で利下げを実施。景気悪化をさせないための金融緩和政策をとっている。

 

 
 今年は中国にとって非常に大事な年だ。なぜなら5年に1度の共産党大会が今秋開催されるからだ。しかも習近平国家主席は異例とも言える3期目の就任を目指して共産党体制を強化している。党大会のある年は景気対策で成長率は上振れしやすいとされてきたが、地方財政の悪化でインフラ投資にも限度がある。

 

一方、米国の202213月期のDGPは新たな変異型「オミクロン型」の流行などを背景に+2%台に再び減速すると市場では予想されている。年末以降に感染者が急増し、外食や旅行などサービス消費は再び冷え込んでいる。オミクロン型の感染拡大は人手不足にも拍車をかけている。米国勢調査局が年末から今年初めにかけて実施した家計調査では、労働力人口の5%にあたる875万人が感染や看病を理由に働きに出なかったと回答。労働市場の逼迫が続けば、賃金上昇を通じてインフレ圧力が高まる。好景気ならでは風景だ。ただし、コロナの影響が和らぐのは2月に入ってから早くも出てきそうだ。新規感染者は1月中旬に平均約80万人でピークに達した後に急減している。今後の最大のポイントとしては高インフレが長引くことで、消費を控える動きが鮮明になってくるかどうかである。個人消費の動向が景気の先行きのカギを握る。

 

さて、ここからが重要だ。「中国経済が減速、すわ大変!」と早まらないで欲しい。中国経済の動向だけでは「景気減速=株売り」にはならないからだ。株式市場を見る際には米国経済の動向が最も大事であり、中国は局所要因として見るのが正しい。中国経済が減速すれば、中国に関わるビジネスをおこなっている企業への影響は大きくなるが、米国経済が安泰である限りは世界のマーケットへの大きなマイナス要因にはならない。「中国恒大集団がデフォルトしたら株式市場は暴落する!」「リーマンショックのようなことが起こる!」などと一部のメディアでは騒いでいたようだが、実際デフォルトしてもほとんど影響は出ていないのはご存知の通りである。あくまで局所的な影響に留まっている。世界経済を見る際には、このあたりのことをきちんとわきまえておく必要がある。

 

太田