最近の若い小児科医は、という言い方をする年頃に僕も差し掛かってきたようです・・・
「小児科医が絶対に見逃しちゃいけない病気ベスト3」ってのがあります。
僕が研修医の時に、かなり厳しく教えられたもんです。
もちろん世の中に見逃してよい病気なんて1つも無いのですが、モノを言わない子供特に赤ちゃんの場合は見逃しによって命に関わる病気もいくつかあります。
なぜ見逃してはならないのかと言うと、見逃しやすいから、なんですね。
一見してただの熱の風邪っぽいけれど、実は髄膜炎でした、なんてケースは小児科の世界では珍しくありません。
そして、その髄膜炎を見逃そうものなら子供の命に直結するんです。
とある指導医など、
「これらを見逃したらまず訴えられる。そしたら絶対に負ける」
とさえ言ってました。
実際こういう病気を(結果的に)見逃した小児科医が訴えられる事例は時々ニュースになります。
ではそのベスト3を挙げてみましょう。
①細菌性髄膜炎
僕ら小児科医が最も恐れる病気ではないでしょうか。
ウィルス性と異なり、進行は早く、助かったとしても後遺症を残すこともあります。
僕が研修医の時に3例ほど経験したことがありますが、3人ともICUで生死の境をさまよわせてしまいました。
髄膜炎の症状と言ったら頭痛・発熱・嘔吐の3つですが、0歳児などは頭痛を訴えませんから、まさかこの熱が髄膜炎の熱?とは中々考えないんですね。
よって常にその存在を念頭に置いて忘れずに診療にあたることを叩き込まれました。
②急性喉頭蓋炎
これもとっても恐ろしい病気です。
喉の奥に起こる細菌感染で、喉が急激に腫れてきて窒息を起こします。
これまた物言わぬ乳児が咳をしていて「クループかな?」と思っているうちに、みるみる悪化します。
救急外来で1例経験がありますが、もう喉が腫れて隙間がなく挿管もできません。
急いでそこにあった太い注射針を首から刺して気道確保した経験があります。
③腸重積
原因不明で突然腸がねじれてしまう病気ですね。
発症して6時間くらいの間なら簡単に治るのですが、それ以上時間が経過してしまうとねじれた腸が壊死して手術が必要になります。
また放っておけば腸が破れて命にかかわります。
例によって腹痛を言わない乳児では要注意で、なんとなく機嫌が悪いとか泣き方がおかしいとかいったサインを見逃してはなりません。
この病気は浣腸して血便が出るかどうかを見れば一発で診断できます。
でもそれをせずに帰してしまうと・・・恐ろしいことになります。
存在を疑って浣腸するかしないかに、かかってます。
ちなみに①の原因菌はHibと肺炎球菌、②の原因菌もHibです。
したがってワクチンが普及した近年はこの2つの病気はほぼゼロになりました。
細菌性髄膜炎のお子さんの管理を寝ずにしながら当時、アメリカにはヒブワクチンというのがあると聞き「ああ~日本でも早く導入されないものかなあ~」と思ったもんです。
僕らが研修医の頃はまだワクチンが無かったので、こういった病気は結構コンスタントに見られたんですが、最近は患者がいないものだから若い小児科医はこれらの恐ろしさを身をもって経験していません。
ほぼゼロとはいっても無くなったわけではなく、ごくごくレアケースとして遭遇することは充分にありえます。
日々ヘラヘラと診療しているように見えるかもしれませんが、僕ら医者ってのはただの風邪だとしても頭の中で「髄膜炎OK?腸重積OK?」などと考えうる可能性を瞬時に浮かべてその存在を常に念頭に置いて診療しているんですよ。