国土に働きかけることの功罪 | Tempo rubato

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小笠原諸島や関東から東海につづいた大雨で、静岡県熱海市で大規模な土石流が発生。一時は20人ほどが安否不明になり、家屋にも大きな被害がでました。

 

 

まだ原因は特定できませんが、伊豆山にあった残土廃棄場が崩れたのが発端ではないかと思われます。

静岡県副知事は、「山林開発の影響はあった思う」と述べ、現場を見た上で「原因はかなりわかってきている」そうだ。

 

 

今回は日本の土地柄・人柄とインフラ整備について書いてみます。

 

日本列島は細長い島の中央に脊梁山脈がそびえ、そこから滝のように流れ落ちる無数の河川から運ばれた土砂が山の間に溜まったり、海へ流出する場所は扇状地となって、大小の平地または傾斜地を形成しています。日本中のどこでも、大雨がつづけば川の氾濫や土石流が起こる危険性がある。

ヨーロッパ大陸のような平坦な土地とは、国土に対する考え方も、そこに長く住んできた人々の人柄も全く異なるわけです。

日本では、予期しない自然災害がいつでも起こり得る。自然災害は恨みの持って行き場がありません。生き残った人々は対立を避け、協力して町を再建して命をつないでいかねばならない。

ですから日本は、起きた被害を「心に留めつつ忘れる」という矛盾、葛藤を背負わざるを得ない過酷な土地柄なのだ、と言えます。そのため、繰り返される災害を少しでも小さくするよう、土地に働きかけてきた。国内線の飛行機から見るとわかりますが、使ってないような山道が山の奥までつづいています。人の手が入ってない山や川はないに等しく、日本列島のほとんどは「人工の自然」です。土地へ働きかけた歴史によって日本列島はでき、日本人ができてきたのです。

 

道路や鉄路の整備は、山間や海沿いに散在した町と町をつなぐインフラとして機能しました。明治時代は、西洋近代の政治制度とインフラ整備によって、日本を統一的な近代国家に成長させた。それ以前は、西洋的な意味の「国家(Nation State)」ではなかったと言っても過言ではないと考えます。なのでボクは、明治時代を基準にした「日本観」は採用しません。制度的なことば、「国家観」とか「日本国民」とか言う時には、明治時代の前と後ではだいぶ違っていることを意識します。

 

話がそれました。

 

近世以降の日本のインフラ(基礎構造とか下部構造)整備は、江戸や東京を中心に行われてきました。現代の幹線道路も東海道や甲州街道中山道などを基に幹が作られ、昔からある地域の街道を枝のように広げられて交通インフラは構築されています。

昔から、日本のインフラ整備は関東から近畿や、瀬戸内から博多へと、伝統的に人の通行が多いところに集中してきました。一方で、かつての陸奥、越から出雲にかけての日本海側は未整備なところが多いままです。北海道は炭鉱が盛んな頃には人口が増え、開発が進んで交通インフラも増えましたが、閉鉱が進み、国鉄が分割民営化されると、鉄路は函館や札幌がある南西部を残してどんどん廃線されています。

 

インフラ整備の話題になると、「人口が少ないところには意味がない」とか「日本は人口減少しているからこれ以上のインフラ整備は必要ない」という反対意見がでます。

しかしこれは、順序が逆です。

都市圏に比べてインフラ整備が遅れているところほど、人流や物流が不便になり、企業が起こらず、生活水準が高まらず、人は都市部に流出して、住みつづける人が減ってしまうのです。

東京圏や大阪圏の人口が増え続けたのは、道路や鉄路を網の目に整備してきたからなのです。

 

人流と物流を全国的に活発化すれば、人や企業は分散して地方格差は縮小していきます。

これが良いことばかりでないのがコロナ禍で証明されてしまいましたけどね。

 

 

新幹線の整備状況を見てみましょう。

 

 

東京を中心に太平洋側に集中しているのがわかります。

北海道東部、秋田、山形。福井、鳥取、島根。南紀、四国、九州東部は空白です。

昭和40年代の計画では空白を埋める整備計画がありましたが、オイルショック以降凍結されたままです。90年代前後の好景気でも新幹線は東京起点でしか開通せず、人口や経済は東京大阪など太平洋側へと流出した。経済が盛んなのは新幹線が通る土地、という具合になっています。

国鉄民営化で、都市間を走る路線から枝分かれする路線は採算が取れなくなって廃線されたり、第3セクター化されました。

岩手県の三陸の鉄道は、明治二十九年三陸地震で物流が寸断された教訓から「三陸縦貫鉄道構想」が立てられ進められたものです。国鉄民営化で計画が頓挫して開通できないまま第三セクター化して、どうにか八戸までつないでいますが、複数の鉄道会社を経由するので不便です。サービスの格差が拡大すれば、人は便利な都市部へと流出します。

人口減少だからインフラが不要なのではなく、人口減少だからこそ広域なインフラ整備が必要なのです。

 

 

道路はどうでしょう。

 


 

新幹線と同じですね。4車線以上の道路は新幹線と並行するように整備されており、北海道や、東北の東西沿岸部や山陰、南紀、九州東部は貧弱な道路しかありません。

東北の幹線道路は中小の港町が散在する三陸をパスして東京から青森へつなぐようになっており、沿岸部から内陸部をつなぐ広い道路が少ないのも鉄路と同じです。

三陸海岸は東北地方太平洋沖地震の大津波で被害を受け、インフラの復興も遅れたため人や企業が内陸部や都市部に流出して多くが戻ってこれなくなってしまった。

災害が起きても孤立しないように、災害後に人々が去ってしまわないように、インフラ格差をなくしていかねばならない。

 

交通インフラだけでなく、防災インフラも不足しています。

 

他の地域と助け合うために、インフラ整備がもっと必要なのです。

 

 

さて、ここまでインフラ整備の「功」を見てきました。

 

「罪」はあるだろうか。ありますね。

 

ひとつは自然破壊です。

いくら人の生活に必要だからと言って無節操にやってはいけないし、自然災害を軽視して手を加えれば、熱海の土石流のような事態を招きます。

中央政府は全体的な経済成長を促す予算を出すとともに、土地柄をよく知っている地元選出の政治家の意見を聞き、土地をよく知る地元企業に仕事と投資をまわす必要があります。

そう言うと「族議員を増やすのか」「利権誘導だ」と批判が起きます。それで採用した競争入札で、土地柄を知らない企業が安く受注して無理な工事で事故原因や災害原因を作ったり、そもそも儲けにならない地方のインフラ整備が遅れたり、その結果東京一極集中が起きたことを反省しましょう。

国土に働きかける営みを、ビジネスの論理で「功」だけ受け取ろうとすれば、「罪」になってしまうのです。

功罪両面を踏まえ、葛藤を抱えながら進めなければならないのです。

 

「罪」のもうひとつ。それはCOVID-19の拡散です。

 

交通インフラの整備率の高い地域と感染拡大が起きやすい地域、または連動して広がりやすい地域が一致しています。

去年の第一波以降、感染症の広がり方を気にしていると、東京大阪名古屋など大都市圏で拡大すると、鉄路や道路でつながりがりの強い地域から拡大が起きていた。気づいた方は多かろうと思う。皮肉なことです。

東京都で増えると埼玉千葉神奈川へ、大阪市で増えると兵庫京都奈良へ、名古屋市で増えると岐阜や静岡へ、広がっていく。新潟や北陸への拡散も新幹線等の人流を無視できない。一方で、インフラが寸断気味の岩手や鳥取島根、四国、和歌山、宮崎、北海道や沖縄は、局所的かつ特異なクラスターを除けば継続的な感染拡大は起きにくく、大都市圏との連動が小さいのです。

地方の場合、物流等以外の移動制限をかければ感染者数(つまり重傷者死亡者)をゼロにできるのです。実際に、第3波までは半分から3分の2くらいの県が、感染者ゼロの期間を1ヶ月以上保っていました。しかし、大都市圏で感染状況が悪化&慢性化するとともに、地方でもゼロにできる県が減った。前回の波間期間では新規感染者がでていない都道府県が40より減ったのは数日しかなかった。

 

交通インフラは人流と物流を活発にする「功」があるとともに、感染症の場合はウイルスを活発に広げてしまう「罪」にもなる。

先進諸外国の感染拡大が大規模になったのは、日本より交通インフラが進んでいる影響もあるのではないかと思ってしまいます。

平時には「功」でも、感染症の場合「罪」になってしまうのなら、制限を課すことを考えなければならないのです。

日本人が苦手な「区別」を、政府が責任を負ってやらねばならない。

 

 

今回は、国土に働きかけること。インフラ整備における功罪について書きました。

どちらかだけを切り取ってあげつらうのは良くありません。

四季があり豊かな恵みをもたらす日本の自然が、同時に恐ろしい災害を見舞うように、取り組みにも「功罪」が同時に生じることを受け止めねばならないのです。

その上で、環境によって開発の可否や適合する方法を判断すること。

状況によって開いたり閉じたり使い分けを判断すること、が必要になる。

 

政府は、支出を増やし国債発行でお金を発行して、平時から国民に余裕を作らなければいけないし、非常時で経済活動できない時には、給付と補償を徹底的におこなうのが大前提になります。

貨幣を発行できる政府の役割だ。

その上で対策の強度を判断すべきです。人流と感染動向の遅延相関を証明する研究が積み重ねられていますので、行動制限・移動制限(欧米よりは軽い日本版ロックダウン)を実行して大波を小さくし、地方への拡散を抑えましょう。その上でワクチン接種を進めていけば、SARS-CoV-2が風邪や季節性インフルエンザと同等になっていくまでの被害を小さくできると考えます。

 

 

経済は、いついかなる時でも回せるものじゃないのです。

災害では止めねばならない時がある。

大雨や台風の時に、「俺は被害にあったことないから大丈夫」と買い物や旅行に出かける人には「やめておけ」と言いますよね。「コロナは風邪と変わらない」と言う人にも「やめておけ」と言わなければならない。

政府が財政支援しないことを前提に論を組み立てるのは、人口減少だからインフラ整備は不要という順序が逆の間違いや、財政破綻論者と同じく、愚の骨頂。世間に流布するのはやめてもらいたい。

 

 

インフラ整備で不確実な自然災害を最小化すること。

非常時に直接的にお金を配って生活や経営への被害を最小化すること。

目的は同じ。救える命を増やすことです。

政府支出や国債発行によってお金は生み出されます。財源は必要ありません。

政府には、責任を負って役割を果たすことを最優先してもらいたい。

 

まずここへ立ち返って、将来を考えましょう。

 

やっていないことを、やらせるために。

 

 

 

大石久和著『国土が日本人の謎を解く』

 

 

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