「何もしなければ死者32万人」は恐怖を煽る極論か。 | Tempo rubato

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アニメーター・演出家 平松禎史のブログ


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TVアニメ『呪術廻戦』にキャラクターデザインなどで参加しております。

第1弾PV  演出を担当いたしました。

お楽しみに!

 

 

                                                     

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 台風の季節がやってきた。

 とは言え、例年に比べて上陸する台風の時期は遅くなっています。今年は7月に台風が発生しない1951年からの観測史上ではじめての例となり、もちろん上陸もゼロ。8月の発生は7でやや多かったが上陸はゼロでした。

 9月の発生は現在ひとつで、それが奄美大島から九州西部をかすめるように進んでいます。台風の東側は強い暴風雨となって被害が大きくなると想定されます。

 早めの避難と避難所の確保が必要でしたが、新型コロナ感染症が収束していないため、避難所は平時よりも多く準備する必要がありました。なぜなら感染リスクを減らすために収容数を少なく絞る可能性が高いからです。宿泊施設などを借り上げて避難所を倍増させる必要がありましたが、政府は新たな補正予算を組んでいないし、安倍総理辞任で総裁選のために政治家が右往左往している状況で、対策が疎かになっている可能性もある。悪いこと、てのは重なるものですが、9月に台風が上陸するのは想定内のことです。

台風の上陸数 気象庁

https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/statistics/landing/landing.html

 

 辞任表明以来めっきり姿が見えなくなった安倍総理ですが(実際は4−6月期のGDP統計が出たあとから減ってましたが)、こんな声明を出しました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200906/k10012603851000.html

《国民に対し「自治体などからの情報に十分注意し、避難や安全確保など、命を守る行動を直ちにとることをお願いする」と呼びかけました。》

 

 最後まで、自己責任の話ばかりでしたね。

 

 災害を小さくする取り組みには時間がかかります。だからこそ、常に政府支出を拡大し、早めに実行しなければいけない。

 

 歴代政府の緊縮財政は万一の時への備えを削る方向へと誘導してきました。

 

 何もしなかった場合の被害が年々増大していく状況です。

 

 緊縮財政思考を転換しなければ、あらゆる災害、あらゆる社会問題は悪化していきます。

 

 新型コロナ感染症でも同じことが起きました。

 保健・医療への緊縮財政で、保健所は半分に減り公務員削減で保険職員も減っていった。医師・看護師も慢性的な不足となり、労働環境が悪化して特に看護師のなり手が年々減っていた。

 日本では新型コロナによる重症者・死者が諸外国よりも少ないが、感染状況の長期化は国民生活を支える経済的打撃をも長期化させています。どちらかだけを改善することはできませんし、どちらかだけを改善しようとしてはいけないのです。

 感染状況が十分改善していないままの経済再開は財政支援の不足が原因だ。

 第二波は緊急事態宣言の解除後に経済再開したことで起きた。

 政府が、給付や企業への利益補償を継続していれば、無理に再開する必要はなく、第二波はもっと小さかった可能性が高い。東京、名古屋、大阪、福岡での感染拡大が周辺の県へと波及したのも経済再開しなければ持たない状況に、政府が追い込んでいたからだ。長期的に。

 ことはコロナが始まる20年も前から、事態を悪化させる方向へと準備されていたのです。

 

 何もしなければ死者は42万人になる可能性。

 4月にこれを提起した西浦教授は批判され、特に藤井聡教授から執拗に非難され断罪されたが、可能性ゼロではない最悪の想定によって第一波は小さく短期間で収まったと言える。

 ボクは、2月末に(当時)WHOが出した症状割合と菅谷憲夫氏が出した当時の死亡率(0.4%)に準じて、日本人全員(端数を切って1億2千万人)が感染した場合の死者数は48万人と試算していたのでそれほど驚きませんでした。中国の場合0.2%でしたので半分でも24万人です。

何も対策をせずに全員が感染するというのは極端な想定ですが、可能性ゼロではありません。

 この「42万人死亡」想定を猛烈に批判したのが藤井教授だったのですが、彼は経済的打撃による自殺者数は2020年に1万人ほど急増し、最悪の場合28年間の累積で27万人になると警告していた。感染被害を軽視し、経済被害を重視したのです。

新型コロナウイルス感染症に伴う経済不況により 自殺者数が累計で 14 万〜27 万人増加

http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/resilience/documents/corona_suicide_estimation_pr.pdf

 ボクはこれにも異論があった。なぜならこの10年、デフレ状況での倒産・廃業が慢性化し、不安定な非正規雇用が増えた中で、自殺者数は年々減っていたからだ。97年の緊縮+消費増税によって1万人近く自殺者が急増して11年間高止まりしたのは事実だが、経済状況だけで自殺の増加を説明できるだろうか。

 以前ブログでも書いたが、社会的に死が可視化され共有されている状況下で自殺者が減った実例があったからです。東日本大震災が起きた時、自殺の増加は直後の2ヶ月だけで、同年6月は約3千人減少、2016年まで毎年1500人前後減る状況がつづきました。大幅な減少です。

倒産・廃業が増加したリーマンショックでも09年は600人ほど増えましたが、翌年と震災が起きた11年は1000人以上減っていたのです。

 経済状況の悪化にともなう倒産・廃業による失業者の増加と、経済的理由による自殺者数の増加は相関しますが、状況によっては相関しない、逆になることもあるのです。経済的要因による自殺は関連被害ですから予測するのは難しいはずです。

 実際に、コロナ禍が深刻化してからも自殺者数は前年比でマイナスがつづいています。長期的な平均で見て下限と思われた2万人を下回る可能性が高い。喜ぶべきことです。

 しかし、財政支援の不足によって息切れした弊害が今後出てくることを心配しています。

 長期的に考えれば、財政拡大をしない弊害のほうが遥かに大きいだろう。

 

 常に心配しなくてはいけないのは、大地震と津波による災害です。

 

 南海トラフ地震では、内閣府が32万人が死亡する試算を出しています。

 試算は、現状の防災インフラ状況、過去の例から算出した避難状況など、現状のまま「何もしなければ」最大で32万人が死亡するという想定です。20年以上の累積ではありません。

 藤井教授は、このような想定をいち早くおこない、国土強靭化構想を政府に提言して採用されました。しかし、基本法ができても予算がつけられず、5年間放置された。3年で7兆円という微妙な予算がつけられたのは台風災害の巨大化、北海道胆振東部地震被害を受けてのことでした。

 必要な予算を出そうとしない政府に苦労した内閣官房参与時代の経験が、彼の「政府は財政拡大をやりそうにない」意識を決定的にしたと推測します。そう考えても仕方のない状況ではありますが、だからといって財政拡大しないことを前提にしたら、最悪の32万人を実現させてしまうことになるでしょう。災害対策は、新型コロナ対策で彼が繰り返し提言しているような、個々人の「命を守る行動」に依存することになり、自己責任と、行動する人しない人を分断する社会意識が益々強化されるでしょう。もうそうなってますよね。

 本末転倒じゃないか、と怒りを覚えざるを得なかった由。

 だから、長期的財政拡大路線への転換という「令和の政策ピボット」の基本理念を繰り返し強調したのですが、無理でしたね。

 

 新型コロナではあきらめるが、自然災害なら話は別だ…、などという身勝手な意識など大自然は忖度してくれません。

 最も根本的な課題をあきらめてしまったのだ。おそらく藤井教授は、国民意識の転換という最重要課題をあきらめたのでしょう。まったく残念です。

 

 ボクの残念感はこの3人の鼎談で漏れなく語られています。

 新型コロナと無責任な言論人〈中野剛志×佐藤健志×適菜収の緊急鼎談連載全5回〉

第1回 https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/624143/

第2回 https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/627316/

第3回 https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/630751/

第4回 https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/634442/

第5回は、明日には掲載されるでしょう。

 

 何もしなければ最大で32万人が死亡する想定はこちらで詳しく報告されています。

南海トラフ巨大地震の被害想定について (建物被害・人的被害)

http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/1_sanko2.pdf

 

 被害想定は過去の災害や現状の防災状況など集積して試算されており、極論ではありません。

 また、国土強靭化によって被害が小さくできることも試算されています。

 ボクは、たとえ極論だとしても、国土強靭化を実行させるためには恐怖を煽らねばならないと考えてきた。鼎談でも指摘されているが、8割を主張してようやく5割とか6割が実現する。西浦教授の「8割自粛」提言は、国土強靭化の思想と合致していたのです。

 

 被害の大きさは季節によって違ってきます。冬の深夜に発災した場合が最も大きい。

 これから冬へと向かう時節、財政拡大を最も強く要求しなければいけない。

 さらに、安倍総理が辞任して、コロナ対策で財政拡大した「異常な2020年」を緊縮財政に戻すべく、リセットがおこなわれるだろう。

 この秋は、デフレ転落以降の22年で、最も強く財政拡大路線への転換を求めないといけない時なのです。

一度だけの財政支出や短期限定の消費減税では経済状況の改善にはまったく役に立ちません。したがって、コロナ禍もズルズルと慢性化する可能性が高くなる。政治的なアピールに惑わされず、長期的な財政拡大路線への政策転換を実現させなければならない。そのためには、より多くの国民が あきらめずに 声をあげつづけることです。

 

 

 

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