2018年はアニメ業界にとって良い年になるか・安倍総理年頭所感の「?」 | Tempo rubato

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アニメーター・演出家 平松禎史のブログ

 

 

『さよならの朝に約束の花をかざろう』

 

岡田麿里監督 P.A.WORKS制作の長編アニメーション映画。

ボクはコア・ディレクター/作画監督で参加しています。

 

 

 

1月22日 TOHOシネマズ ファボーレ富山より全国縦断試写会がスタートします。

 

公開は2018年2月24日

http://sayoasa.jp/

 

 

《東京アニメアワードフェスティバル2018 メインビジュアル発表!メインビジュアルを手掛けたのはアニメーターの平松禎史氏!!》

http://animefestival.jp/ja/post/7772/

 

 

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去年末にiPadを導入して絵描きさんがよく使っているClip Studioを購入して練習し始めました。

 

前回の年賀絵もそうです。

 

今回は油彩筆で濃い色調を使ってみたけど色が乗りにくいっていうかコントロールが難しい。

仕事で使うには未熟すぎだ。

 

 

 

さて

 

元日は家でのんびりしていました。

時々Twitterを覗くと、トリガーのプロデューサー桝本くんが質問に受け答えしていました。

 

アニメ業界への素朴な質問。

なぜ、正社員を増やせないのか。

最近増えてきたネット配信事業でアニメ会社が権利収益をあげることはできないか。

など

 

アニメファンの方が業界のことを真剣に考えてくれるのはとてもありがたく、元日から涙がでるような心持ちになりました。

 

便乗してボクの考えを書きましたが、以前より一貫して答えはおおむね決まってしまいます。

 

デフレを脱却して、経済成長路線を実現すること

 

です。

 

 

三橋貴明さんのシンポジウムに参加して様々な業種の経営者さんや、若い起業家の方と話をしていても、それぞれの業界がチャンスを掴むには

 

デフレを脱却して、経済成長路線を実現すること

 

が、キモになる。

経済成長できてない状況では、改善策はコストカットをして純益を相対的に増やすしか手がないのです。

コストカットで最初に行われるのは人件費の削減ですから、アニメスタッフの労働環境は良くならない。

正社員を増やすなど、フィクション以上の夢物語だ。

 

デフレ状況は、制作環境を改善しながら収益を増やすまっとうな経営ができなくなる、最悪の状況なのです。

ブラック企業、サービス残業、過労死などなど。苦しいのはアニメ業界だけではない。

様々な業種で同様の連鎖が起きて国民の貧困化が進むのです。

20年デフレでじわじわと、物心両面の貧困化が進んでいます。

 

良い作品を作っても結果が出るとは限らないアニメのような業種は、企業の投資も増えにくい。

一般企業でアニメに理解のある世代が経営に関わるようになり、株主の心証を得る文化事業への出資が確保できるうちは大丈夫ですが、経営が圧迫されて背に腹変えられなくなれば、結果の出にくい出資から打ち切られるでしょう。

リスク回避や権利ビジネスのしやすさなどメリットもある製作委員会方式は、デフレ不況で多作低予算の弊害が定着していますが、それすらできなくなって本数が減り始めた時が分水嶺。

作りたくても作れない状況が現出する。

アニメスタッフは貧乏どころか、仕事が減って離職せざるを得なくなります。

そうなってしまってから足掻いても時既に遅しです。

 

クラウドファウンディングの直接投資もよく話題になりますが、これも実質賃金が下がっていくデフレ状況では瞬間的にしか機能しないでしょう。

投資したいファンの心持ちはありがたいのですが、直接民主制のような仕組みはポピュリズム…つまり全体主義に発展するのが歴史の教訓ですから、あまりオススメできません。

 

 

消費者=生産者

 

経済の基本は、生産者が他の生産者の生産物を消費して所得をぐるぐると巡らせることです。

その循環が大きくなることを経済成長と言います。

経済成長とは、所得拡大のことです。

 

ですから「経済成長はもうできない」「経済成長を求める時代は終わった」などという政治家や有識者、テレビコメンテーターは、私達に貧乏になれ、若い人に結婚して子供を作るな、と言っているのに等しい、暴論を吐いていることに気が付いていない愚か者だ。

 

 

安倍総理の年頭所感は、経済成長を実現するという意気込みだけは評価できます。

ともかく年頭の所感なので具体的な話がサッパリなく軽薄な印象は割り引きましょう。

安倍内閣総理大臣 平成30年 年頭所感

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2018/0101nentou.html

 

それならば、5年間の成果を過大評価…いや、悪いものを良いと塗り替えてはいけない。

名目GDPが11%増えたと言うが、中国は60%ほど、マレーシアは50%ほど伸びている。

経済成長率は世界最低ベルなのだから当然の差であって、発言力、交渉力を失っていく。

株価の上昇は円安で海外の投機家が売買するようになった結果、さらには北朝鮮危機やアメリカの経済政策の影響のほうが大きい。

有効求人倍率の上昇は、人口が多かった高齢者層が引退して、人口が少ない若年層で埋められずに起きた、半ば自然現象だ。

就業者数の増加は引退した高齢者や40代以上の女性が家計を助けるためにパート・アルバイトで働くようになった影響が大きい。

フルタイムの正社員より短時間のパート・アルバイトのほうが増えているため、総労働者の増加に対して総労働時間は大して増えていない。

その結果、実質賃金が下がっているのは、三橋、藤井、島倉氏などが分析している通り。

因果関係を誤認していたら正しい政策は出てきません。

 

安倍総理と会食した三橋貴明さん、藤井聡内閣官房参与が常々重々分析していることだ。

 

 

何かしら歴史的な重みを持たせるためか、女性の活躍を印象づけるためか、明治時代の岩倉使節団に加わった留学生、津田梅子さんをとりあげた。

立派な方なのは確かだが、6歳からアメリカで暮らしたため日本に帰ってきた時には日本語を忘れていた。感覚もアメリカ化して年頃になっても日本の結婚観になじめず生涯独身だったという。

彼女の価値観なので何とも言えないが、はたして幸せといえるのか。

そういう人の人生を現代女性の「見本」にして良いのか、疑問を持たざるを得ません。

 

岩倉使節団に参加した木戸孝允はアメリカで様々な交渉で苦労するうち、伊藤博文や森有礼ら開化主義者と距離をおくようになり、慎重な漸進論者に変わったという。

欧米の感覚をそのまま日本に適用できないことを悟ったのだ。

《「只開化々々と名利而己(のみ)に相馳せ、友人知己も旧を忘、本を失し、軽薄を以常となし候」。開化開化と蝶々している目の前の輩は、皮相な欧化にしか目の行かない軽薄な連中であり、国家の礎のことなど考慮の外で自らの名利心のみに突き動かされて行動している。彼らには国家の大計など任せておくことはできない。それが、ここでの木戸の痛感するところであった。》

(瀧井一博『文明史のなかの明治憲法』p50)

 

「欧化」をアメリカ化に入れ替えればそっくり安倍内閣の評価になりますね。

 

ちなみに「名利」とは名誉と利益のこと。

 

年頭所感で「?」と思ったのは、かなり唐突に「2020年、さらにその先を見据えながら」との文言だ。

来年は2019年。なぜ一つ飛ばして2020年の先なのか。

2020年といえば東京オリンピックだが、「オ」の字も、五輪の「五」の字もない。

今上陛下から皇太子殿下への践祚、参院選や消費税増税など重要な政治日程は19年に集中している。

はて?なんだろうと考えてハッとした。

 

19年9月の総裁選で3期目をつとめれば、まさに「2020年、さらにその先」ってことになる。

 

なるほどね。自分の「その先」のことだったわけだ。

さもしい名利心だね。

 

「開化開化と蝶々している目の前の輩は、皮相な欧化(アメリカ化)にしか目の行かない軽薄な連中であり、国家の礎のことなど考慮の外で自らの名利心のみに突き動かされて行動している。」

 

木戸孝允公が安倍総理を見たら、森有礼へと同じく「きゃつ」と唾棄し、同じ長州人として恥じ入ったかもしれない。。。

 

元日からげんなりする年頭所感だった。

 

 

今年はアニメ業界にとってどんな年になるだろう。

 

今は、『さよならの朝に約束の花をかざろう』がヒットしてほしい

ただそれだけを願っている。

 

さらにその先に、日本経済全体とアニメ業界の繁栄を。

 

そのためには6月に閣議決定される経済方針で「プライマリーバランス黒字化目標」が削除される必要がある。

経済の手足を縛っている頑強な鎖を断ち切らねば、アニメ業界の構造問題を改善することもできないのです。

 

 

 

 

 

 

 

 


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