カゲの話・落ちカゲと立体カゲと島カゲ | Tempo rubato

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アニメーター・演出家 平松禎史のブログ

 

この間、電車の広告でこんなポーズをとったモデルさんの写真を見ました。

ザザッと描いたので実際とは違いますが、あくまでこんな感じです。

 

写真では左やや上からライティングがあってクッキリとカゲが落ちていました。

これはカゲの付け方を考える良いサンプルだな・・・と眺めていたのですが。

 

「ユーリ!!! on ICE」でカゲ付けの仕方を訊かれた時に「落ちカゲをメインに」と説明したことを思い出して、電車に揺られながらこんな自問をしていました。

 

「カゲ」とは何か?

 

アニメではカゲの多い少ないが話題になりますが

平面的な(セル)アニメの絵に立体感を与えるカゲの付け方には、主に二種類あります。

 

「落ちカゲ」

「立体カゲ」

 

です。

これに「島カゲ」というものを加えると三種類。

 

(あとは、「ジブリカゲ」というのもありますが、ボクには理解不能なので省きます。)

 

上の作例に、3種類すべてを使って影をつけてみましょう。

こうなります。

 

ライティングは真上からです。

 

今時のアニメからするとカゲが少なくて見栄えがしないかも知れませんが、ボクとしては、一所懸命多く付けたのがこれです。

「島カゲ」は後述するとして、まずは「立体カゲ」と「落ちカゲ」を説明します。

 

「立体カゲ」とは何か?

右の(向かって左の)おっぱいの線を包むようにカゲが付いていますが、この線の上側に付いているのが「立体カゲ」です。

つまり、おっぱいの丸み・盛り上がりを表現するために付けるカゲ。

 

「落ちカゲ」とは何か?

同じおっぱいの線の下側に付けているカゲが「落ちカゲ」です。

つまり、光によっておっぱいのカゲが投影された部分に付けるカゲです。

 

右脚に左脚が乗っかっている線を包むように付いているカゲも、上側が「立体カゲ」、下側が「落ちカゲ」です。

 

このカゲ付けでは「立体カゲ」と「落ちカゲ」が混在しています。

 

このようなカゲ付けでは、肌と服、肌と髪、のように違う部品の境界では色も違うので混在していても問題ありません。

これが、肌の内側、服の内側、髪の毛の内側、のように、同じ色の内部で混在した場合、問題が起きてしまいます。

どんな問題かというと、セルアニメでは、ノーマル色もカゲ色もそれぞれまったく同じ色になります。

実写のように同じ部品の内側で複雑な反射が影響して影の明度や色が様々変化することがなく、まったく同じ色になってしまいます。

本来、別種な「立体カゲ」と「落ちカゲ」が同色になり、区別がつかなくなってしまい、内側に存在する線の意味が不明瞭になる。

 

つまり、おっぱいの線の意味がなくなってしまうのです!!!

 

重なっている脚のどちらが手前に来てるのかもわかりにくくなってしまいます。

 

つまり、脚の微妙な線の意味がなくなってしまうのです!!!!!

 

思わず興奮してしまいましたが、控えめに言っても、線の意味合いが弱くなります。

線の両側にカゲをつけてしまうと、どちらも同じ色だから、線を描いている意味が弱くなってしまうのです。

 

影の付け方を工夫して「立体カゲ」と「落ちカゲ」を分けるやり方もありますが、止め絵ならコントロールできても動いてしまうと維持するのが困難で、ガンバレばできますが生産性が低下し、動画・仕上げでのミスも増えます。

カゲ線が複雑化して絵もクドくなりがち・・・。

 

というわけで「落ちカゲ」のみで描いたのがこちら。

ずいぶんスッキリしたでしょう?

 

おっぱいの辺りは醍醐味が足らないので立体カゲも利用したほうが良さそうですが、そこそこ盛り上がりが表現できていると思います。

脚の辺りは、左足が上に乗ってる感じが明確です。

 

太ももとスカートで形成される(極めて重要な)デルタもこちらのほうがクッキリ明確で魅力的じゃ~~あ~りませんか。

これはスカートの線と太ももの間の谷間の線(T字デルタ)の距離感、空間が明確になるからです。

 

ボクが、「落ちカゲ」メインで構成したいのは、このように、立体や、重なり方、服と肌の距離感、空間、スキマが明確にできるからです。

動かした時にも厄介な形の変化を起こしにくいのです。

 

さて

「島カゲ」ですが

これは、ボクとしては極力付けないようにしています。

まず、ミスを起こしやすい。

実線と接触していなくて拠り所がないので、中割でどうなるかコントロールが難しいからです。

突然消えたり出たり「パカ」の原因にもなります。

できるだけ避けたいものです。

 

鎖骨の下の凹み部分はとても魅力的なので付けたくなるんですが、広めに開いたシャツや、ブラジャー、水着を着てるの場合は「落ちカゲ」を使って表現できます。

 

要するに、表現したいのは「カゲ」ではなく、「形」「空間」なのです。

手段でしかないカゲ付けを目的に転化してしまうと、どんどんカゲが増え複雑化して、労力の割に何を見せたいのか印象に残らないし、自分の首を絞めてしまいますので注意です。

(経済における「基礎的財政収支(プライマリーバランス)」も、または「憲法」も同様に目的ではありませんよね。)

 

ボクは「落ちカゲ」メインで十分表現できると考え、実践してますが、カゲは作品観によって使い分けるものです。

カゲの意味を整理・理解した上でそれぞれ使い分けることが肝要かと思います。

 

 

 


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