大統領選挙で浮かび上がる日米共通かつイデオロギーを超えた問題点 | Tempo rubato

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アニメーター・演出家 平松禎史のブログ



アメリカ大統領選挙、予備選についてはひとまず今回でまとめとします。

日本では時折り「首相公選制」を求める声が出てきます。
リーダーシップを強めるために直接選挙で選ばれる公選の首相にすべきであるという主張です。
引き合いに出されるのが大統領制ですが、アメリカの大統領は有権者の直接投票で選ばれているんでしょうか。

システムはけっこうややこしいんですが
予備選挙では投票候補を明言している代議員を選び、州ごとの選挙では勝者総取り方式(メイン州、ネブラスカ州以外)で州が選ぶ候補が決まります。
なので本戦前に誰が大統領になるか実質決まってしまうこともあります。

直接選挙とは言い難いですね。

それから、大統領の権限はそんなに絶大ではありません。唯一、戦争のような有事では権限を一本化することになっていましたが、朝鮮戦争・ベトナム戦争の反省を踏まえて制定された「戦争権限法」によって制限が加えられ、絶大ではなくなっています。

なので、首相公選制は地方行政と国をごっちゃにした空言、ということですね。

大統領は、約1年に及ぶ選挙期間で議論された様々なことを就任後に反映させることが求められます。

前回考察したように
「ヒラリー・クリントン大統領」になったとしても、自分を選んだ州の意見だけ採用するわけにはいかない。トランプ氏を選んだ州、同じ民主党のサンダース氏を選んだ州の民意を取り入れなければ、その州をないがしろにしたことになってしまいます。
州がそれぞれ国のように独立心が高いアメリカでは、そんな「民主主義」に反することは「反アメリカ」と同義になってしまうでしょう。

なぜかと考えてみれば
アメリカなど大統領制の国々は、元首として大統領を選んでいます。それは、伝統的な国の意思を継承する王や天皇の代わりを選んでいるのです。
アメリカは「民主主義」で国家をまとめるのが建国以来の伝統ですから、大統領の方針はアメリカの「民主主義」に沿っていなくてはならない。となれば、選出の過程で直接・間接に示されている民意を無視できないわけです。議会も同様でしょう。

というわけで
スーパー・チューズデー後の様々な反応を見てみます。
まずは海外の新聞から

米共和党外交政策の重鎮ら、トランプ氏の提案を非難 ニューズウィーク
http://www.newsweekjapan.jp/headlines/world/2016/03/165755.php
米共和党で外交政策を長年担当した専門家60人が2日、同党の大統領候補指名争いでトップを走るドナルド・トランプ氏が提案している政策は米国の安全を危険にさらすとして、強く非難する書簡を公表した。
(中略)
書簡は、トランプ氏の反イスラム発言や、メキシコからの不法移民を制限するための壁を設置すべき、米国との安全保障協力で日本はさらに負担すべきといった同氏の提案への反対を表明。「熱意のある忠実な共和党員として、トランプ氏の指名獲得を支持することはできない」とした。

米国民は怒り心頭:トランプ氏善戦の陰に大恐慌以降「最悪の景気回復」 ブルームバーグ
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O3DKKK6JIJUP01.html
秋に大統領選挙を控えた米国で、有権者の間でまったく現実味が感じられないフレーズの一つに、経済は順調だという言い方がある。
(中略)
ゆがんだ富の配分を批判するサンダース氏。貿易の影響で雇用が失われると猛烈に攻撃するトランプ氏。いずれも米国の政治においては目新しい主張ではない。しかし、大恐慌以降で最悪の不況とそれを受けた最も弱々しい回復を目の当たりにして、全米の有権者はこの主張に積極的に耳を傾けるようになった。

ブルームバーグ記事の冒頭は日本の現状と同じですね。

では日本の反応は?

米国大統領選 分断の政治を憂う
http://www.asahi.com/paper/editorial.html?iref=comtop_gnavi

異端の2候補が覆した法則…トランプ&サンダース支持の原動力は同根の「怒り」なのだ ニューヨーク駐在編集委員・松浦肇
http://www.sankei.com/world/news/160228/wor1602280040-n1.html

スーパーチューズデーで圧勝したトランプ氏が米大統領になったら日本は悪夢にさいなまれる  ヤフーニュース(在英ジャーナリスト、木村正人氏)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kimuramasato/20160302-00054974/
トランプ氏は孤立主義と保護主義を強め、軍事力を強化して米国だけの安全保障を確実にしようと考えています。同盟国には怒りをぶちまけるトランプ氏ですが、外交・安全保障政策で強硬策をとるロシアのプーチン大統領には親近感を感じるようです。

見出しを読んだだけでも、なんだか真っ暗闇の世界が訪れるかのようなオドロオドロしい反応ですね。
一部引用したヤフーニュースの記事はあからさまな嫌悪感を露わにしています。
「プーチン氏に親近感」と書けば社会主義者か独裁者に近いと印象付けられるわけですが、長い対立関係にあった二大国が協力関係を結ぶことを批判するのはどうしてでしょう?
ロシアとアメリカはモメていたほうが良いんでしょうか?

朝日、産経、在英ジャーナリスト、それぞれ観点は違いますが、自分が望まない方向に行くかもしれないという恐怖心が現れているようです。

なぜ、内需型政策を恐れるのか?

今回で3回めになる大統領選絡みの投稿で共通して書いていることですが
「日本にとって」と考える時、軸がどこにあるか? ですね。
安倍政権支持として?
安倍政権不支持として?
安倍政権=日本ならそれでも構いませんが、違いますよね。
イデオロギーや経済理論を軸にするのも、違いますよね。

トランプ氏やサンダース氏の主張は、収縮する世界経済を受け、中間層を豊かにする内需に目を向け、金融・株主資本主義に傾いたアメリカを見直して、かつてのような強いアメリカに戻ろうというものです。
「かつて」というのは第二世界大戦前後の数十年間と考えがちですが、彼らの主張を観察すれば、モンロー主義を貫いていた時代でしょう。
モンロー主義は19世紀初頭から行われたヨーロッパとの相互不干渉で、保護主義の代名詞に使われます。
日本やイスラム、メキシコに暴言を吐いていますが、進んで攻撃するわけではなく、関わりたくないと言っているわけですから、ある意味「戦争しない国」を目指してるとも解釈できませんか?
モンロー主義ならそうでしょう。

世界経済の収縮に影響を受けるのは、日本も同じです。
安倍政権は、そんなご時世にもかかわらず、内需の拡大を疎かにし、外国に売り込みをかけ、外資を日本に参入させやすくしています。これもメチャクチャな話です。
日本のマスメディアなど言論が歪んでいるのは、海外が当てにならず、金融政策に限界が来て、内需の不足を補う積極財政が必要なのに、予算の拡大をほとんど議題に上げないことです。

朝日新聞は
「政治家たちが問題のありかを国外に求め、自国優先を唱えれば心地よく響く。」
と書き、内需拡大策が政府を強くし、経済成長は国民を内向的にし、海外への攻撃心を拡大させると警戒しているようです。

産経新聞は「中間層には手厚い社会保障を約束するトランプ氏の主張は耳に心地よい。」
「異端2人組」は米国社会のゆがみに便乗したのだ。

と書き、不満を蓄積している中間層に訴える政策を実現不可能な夢物語かのように揶揄する論調で、社会主義的な政策群に反発があるのでしょう。

両紙が、自社が持つイデオロギー(物語)を基準した見方をすればするほど、問題の本質から遠ざかり、見直すべき問題点が見えなくなっている。


クリントン氏が大統領になってもトランプ氏・サンダース氏に賛同した民意を無視できないだろうと書きましたが、仮に(移民排斥以外で共通項の多い)トランプ氏、サンダース氏のどちらかが大統領になったとしても、クリントン氏やクルーズ氏、ルビオ氏を選んだ州の民意を無視できないでしょう。
民主党、共和党で重心が多少変わる程度だと考えといたほうが良いのではないでしょうか。

現在残っている有力候補の政策を見る限り、海外依存を減らし内需拡大で中間層を重視せよ、という国民の問題提起は意識されることになるでしょうね。

アメリカが内需型・(集団的でない)個別国防型にカジを切った場合
安倍政権の外需期待・金融政策依存を批判し、内需型への政策転換で経済成長を求めないと、日本は東アジアで埋没するかもしれません。
同時に
日米同盟を信奉しアメリカに守ってもらう前提の「専守防衛」安全保障を(憲法も含め)見直さなねばならないかもしれません。
「左・右・保守」オールジャパン(?)に突きつけられている問題とは何でしょうか?

ひとつ確実なのは、現実を見ること、ですよね。



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