「結果にコミット」
スポーツジム運営で有名な上場企業 RIZAPグループが
4月23日に2024年3月度 通期決算見通しを上方修正しました。
公式発表は4月23日の引け後だったのですが、
その日の朝にはリーク記事が報道され、同社株価は
23日には急騰して75日線と25日線を一挙に上抜け、
翌24日は激しく上下し、その後はこの週末まで
落ち着いた動きとなっています。
日足;
さて、上方修正の中身はどういうもので、
同社の決算にどれだけのインパクトを与えるものなのか?
中身を見てみました。
(1) 上方修正の内容;
実は、同社は2月14日にも通期見通しを上方修正しています。
その内容は;
そして約2ヶ月後の今回の修正内容は;
売上は少し下方修正。
だが営業利益は2月の修正計画よりも 10.5〜20億円の改善、
となっています。
主な理由は「Chocozapの増益」との事です。
(2) 今回の修正のインパクトは?
前々年度から今年度の第3四半期までの実績、及び
第4四半期の見通しの四半期ごとの売上と営業利益率の推移は
次の図の通りです(営業損益が一番低いケース)
第4四半期の売上は直前の第2・3四半期と大きくは変わっておらず
前年同期よりは下がってさえいます。
しかし営業利益率は大きく改善。
前年度の第3四半期から4四半期連続で赤字だったのが
今年度の第3四半期は黒字化して営業利益率は 2.4%、
第4四半期の見通しは最悪でも上図の通り 9.3%、
最良のケースでは(図には記載していませんが)
11.6%に達します。
これは重大な意味を持ちます。
今後、第4四半期のような結果を今後も継続して出せれば、
この会社は「赤字会社」の汚名を返上でき、晴れて
「利益体質の会社」に変貌できる事になります。
でも、ちょっと待って下さい。
何かが変ですね。
(3) RIZAPグループ決算の疑問点;
(a) 上方修正の主な要因は?
冒頭に述べた通り、今回の上方修正の主な要因は
「Chocozapの収益拡大」との事でした。
その前の2月の修正の際も、主要因はChocozapとの事でした。
一方、RIZAPグループは 66社の連結子会社を持ち、
それらを以下の3分野に分けて管理しているようです。
①ヘルスケア・美容 (Chocozapを含む)
②ライフスタイル
③インベストメント
3分野毎の営業利益の推移は以下の通りです。
赤い星を付けているのが直近の第3四半期です。
Chocozapが含まれる「ヘルスケア・美容」は水色の部分で、
まだ赤字です。
第2四半期よりも赤字幅が大幅に減少しており、
それはChocozapのお陰かもですが、
それよりも目立つのはオレンジ色の部分、
「ライフスタイル」部門の黒字化です。
つまり、第3四半期の黒字化はChocozapだけでなく、
ライフスタイル部門の貢献によるところが大きかった模様です。
今回の上方修正も「Chocozapの営業利益が10億円以上増加」
とあるが、実際に上方修正された金額は最大で20億円。
やはり、Chocozap以外も貢献しているようです。
しかし、公式発表ではChocozapばかりが強調され、
他の部門について記載されているのはライフスタイル部門の
REXT社の不採算部門の退店くらいで、前向きな事は
記載されていません。
ここに何かの意図があるように感じてしまいます。
(b) 巨額の金融費用;
上述の通り、営業損益は2月の修正計画よりも 10.5〜20億円
改善する見通しです。
しかし、税引前損益は最良の場合で前回見通し通り、
最悪の場合は 9.5億円の悪化、となっています。
つまり、営業損益と税引前損益の間で20億円の
損失が増える見通しになっています。
これは何か?
当社は国際会計基準(IFRS)を採用しているので
「特別損益」という概念はなく、決算書での営業損益と
税引前損益の差は「金融収支」か「持分法による投資損益」かに
なりますが、同社の決算書には後者の記載がないので、
この差額は「金融収支」になるはずです。
つまり、金融収支が 20億円悪化する、言い換えれば
金融費用が拡大する、という事です。
昨年度の金融費用は 2,256百万円。
有利子負債の期中平均値は 74,570百万円。
(前期末と当期末の残額の単純平均した荒い数値です)
金融費用が全て利息だとすると、大変荒い計算ですが、
借金に年利3%の金利を払ってる事になります。
第1〜3四半期の決算実績では金融費用は9ヶ月で 2,416百万円。
有利子負債の期中平均値は 85,166百万円。
これも金融費用が全て利息だとすると、年利 3.8%になります。
今の低金利時代に年利 3.8%は非常に高いと思いますが、
仮にこの利率で支払金利が第4四半期の3ヶ月間で20億円も
増えるとすると、借入が 2,105億円増える計算になります。
→ 当社の規模からして、あり得ない位に大きい。
どうも増えるのは金利だけではなさそうです。
何の費用が20億円も増えるのか?
(c) 法人税額の減少;
上述の通り、税引前損益は最良の場合で前回見通し通り、
最悪の場合は 9.5億円の悪化、となっています。
しかし、税後損益は最悪でも 0.5億円の改善、
最良では 10億円の改善、となっています。
税引前利益が減るのに税後利益が増えるのはなぜか?
→ 税引前利益が減る分以上に、税金が減る、という事です。
また、そもそもの見通し値は、税後の数値の方が
税前の数値より大きくなっています。
→ 儲かってないのに税金を払ってる、という事です。
これはどういう事か?
(4) 上記の疑問点からの推測;
(この部分は個人の勝手な推測です)
(3)-(c)から推測できるのは、当社の損益には多額の
有税引当が含まれており、これを第4四半期に
取り崩す事を計画している、という事です。
→ 2023/12末時点で約39億円の引当金が計上されている。
これの一部を取り崩すとか?
例えば、REXTの不採算店舗がらみで多額の損失を覚悟し
引当金を計上しているが、税務署がこれを損金とは認めてくれない
(まだ損失が実現してないので)ので有税で引当を計上していた。
が、それら不採算店が退店する事になったので、引当金をを
取り崩した。
→ IFRSなので、これは営業利益にプラスで入る。
→ 有税引当なので、これがプラスになっても法人税は増えない。
また、(3)-(b)の巨額の金融費用に関しては、金利以外の何かが
プラス/マイナス両方に入っており、プラスは営業利益に
マイナスは金融収支に泣き別れになっているかもしれません。
これらから考えると、営業利益はプラスになる見込みだが、
ここには多額の一過性の利益が含まれている可能性がある。
→ 日本基準だと難しいが、IFRSだとよくある話。
→ もしそうなら、来期の決算はまたマイナスに転落する
可能性も否めない。
結論;
① 第4四半期の営業黒字に一過性のものは少なく、
来期以降も同様の利益率を計上できるならば、
当社は利益体質になったと期待でき、
これは非常の大きな意味を持つ。
② しかし、筆者の推測のように営業損益には引当金取り崩し
のような多額の一過性の利益が含まれているならば、
来期以降も第4四半期の利益率を継続できるかどうか非常に疑問。
③ 株主さんで興味のある方がおられれば、
5月15日の決算説明会で以下のような事を質問
されては如何かと思います;
(質問の事前受付期間は5/13まで)
・今期の営業損益には一過性利益をどの程度含んでいるか?
・ライフスタイル部門の収益が第3四半期に大きく改善した理由は?
・金融費用が巨額な理由は?
→ 支払金利以外に何がどれだけ含まれるか?
尚、この財務分析・評価は筆者個人の考え方に基づいて行ったもので、
別の見方をされる方もおられるかもしれません。
また、数字やグラフも含め、内容には筆者の書き間違いや
勘違いが含まれているかもしれません。
いずれにせよ、この記事は投資を推奨するものではありません。
数字はご自分で検証の上、投資は自己責任でお願い致します。
以上です。