慶應義塾女子高等学校の入学者は、幼稚舎入試、中等部入試、女子高一般入試、女子高帰国生入試、女子高推薦入試のいずれかを経ています。たとえば、2024年入学者の内訳は次のとおりです。

  • 幼稚舎入試組:50名弱
  • 中等部入試組:50名弱
  • 女子高一般入試組:73名
  • 女子高帰国生入試組:14名
  • 女子高推薦入試組:32名

家庭の経済格差が明らかに存在するため、Netflixで配信されている韓国ドラマ「ヒエラルキー」のような世界を想像するかもしれません。しかし、実際には次のような背景から、家庭の経済格差による問題は起こりにくいようです。

  1. いずれの入試も最難関レベルであるため、全般的に生徒の自己肯定感が高めで、内進生が傲慢になったり、高入生が卑屈になったりしにくい傾向がある。
  2. 幼稚舎入試組と中等部入試組は、中等部でそれぞれ内部生と外部生の立場を既に経験している。
  3. 帰国生入試組と推薦入試組が内進生と高入生の早期撹拌作用を担う傾向にある。

そのため、等身大の自分を肯定できる女子にとっては、多様なバックグラウンドを持つ才媛たちと楽しく切磋琢磨できる魅力的な環境が整っています。

↓の「辛酸なめ子の女子校探訪」は女子高の実態をよく捉えており、慶應中等部や女子高を志望校として検討する際にはとても参考になると思います。

 


慶應女子の入試

慶應女子の入学志願書には志願者本人と保護者が志望理由などを記入するページがあります。次の慶應義塾の目的を記した文章の趣旨をできるだけ正確に理解した上で記入することが望ましいと考えられます。

慶應義塾は単に一所の学塾として自から甘んずるを得ず。其目的は我日本国中に於ける気品の泉源、智徳の模範たらんことを期し、之を実際にしては居家、処世、立国の本旨を明にして、之を口に言ふのみにあらず、躬行実践、以て全社会の先導者たらんことを欲するものなり。

一般入試・帰国生入試出願書類(2024年)の主な記入事項等

  1. 中学時代を振り返って思い出すこと (志願者記入/5行)
  2. 高校時代に特に力を入れてみたいこととその理由 (志願者記入/5行)
  3. 本校を志望した理由 (保護者記入/4行)
  4. 家庭教育で力を注いできたこと (保護者記入/4行)
  5. 中学校在籍時に転校又は3年間で10日以上の欠席若しくは10回以上の遅刻をした場合はその理由 (保護者記入/4行)
  6. 特別活動 (学級活動、生徒会活動、クラブ・部活動、学校行事、その他)の記録 (担任記入/一般入試調査書項目)
  7. 学校生活全般についての総合所見 (担任記入/一般入試調査書項目)
  8. Academic work and intellectual characteristics and abilities (帰国生入試 - School Report項目)
  9. Personal qualities and extracurricular activities (帰国生入試 - School Report項目)
  10. Additional comments on the applicant (帰国生入試 - School Report項目)

推薦入試(2024年)の記入事項等

  1. 本校を志望した理由の詳細 (志願者記入/8行)
  2. 本校に入学したらどのようなことをしようと思っているか (志願者記入/8行)
  3. 志願者を今までどのように育ててきたか、また、これからどのような人間になって欲しいと考えているか (保護者記入/8行)
  4. 特別活動(1年、2年、3年)の記録 (担任記入/調査書項目)
  5. 学校生活全般についての総合所見 (担任記入/調査書項目)
  6. 活動報告書 (担任記入/15行)
  7. 「中学生として諸活動に積極的に取り組んだ」ことを証明する賞状・新聞記事・資格認定書などのコピー

一般入試・帰国生入試は出願書類における項目間の整合性が、推薦入試はそれに加えて面接との整合性が重要であると考えられます。

推薦入試の趣旨

推薦入試の情報は、比較的合格者が少ないこともあり、インターネット上ではあまり有益な情報が出回っていません。その中で↓のブログ記事はとても参考になります。

 


ただ、本気で推薦入試での合格を目指す場合、「慶應女子の推薦入試は基準がわからない」「どの子が受かるか本当にわからない」「慶女推薦は宝くじ」といった塾講師のコメントは真に受けるべきではありません。

慶應女子の推薦入試は、就職試験のようなものだと考えた方が良いため、女子高がどういった子を推薦入試でとりたいと考えているのかを、①前記の慶應義塾の目的、②女子高の教育理念、③推薦入試の要項の冒頭にある受験生へのメッセージ、④出願書類の構成などから読み取った上で、一貫性のある自己アピールを各書類に説得的な形で落とし込む必要があります。

中学生として諸活動に積極的に取り組んだ実績を示すことが求められていますが、出願書類、適性検査、面接を総合して、周りに良い刺激や影響を与えられそうな子だと思ってもらうことが重要なので、必ずしも高いレベルの実績は必要ありません。また、15分間の面接で、出願書類との整合性を見られるため、就職活動と同様、無理に自分を大きく見せようとすることは逆効果です。

女子高がどういった子を推薦入試でとりたいと考えているかについては、↓のインターエデュのスレッドの「ひろピー  (ID:4ASq.39WiMk)」さんの投稿が非常に参考になります。玉石混淆のインターエデュですが、この投稿は信憑性が高いと考えられます。

 


女子高を盛り上げる原動力、より具体的には幼稚舎・中等部出身者とも仲良くして、彼女たちともほど良い距離感を保ちながらも一体化し、女子高を引っ張っていける潜在能力のありそうな子が求められているようです。

そういった潜在能力は就職活動でも最も評価される能力の1つであることを考えれば、残念ながら高校受験塾の講師のアドバイスはあまり参考にならない傾向があります。特に志願者記入欄や保護者記入欄のレビューは、たとえば就活で成功し、10~20年くらいのキャリアを持つ社会人にお願いした方が良い可能性があります。

前記の慶應義塾の目的を理解している卒業生であったり、人事部などで面接官の経験があったりするとなお良いです。親がそういった経歴を持っていて、かつ、わが子の実像を客観的に捉えることができるのであれば、必ずしも第三者のレビューは必要ありません。

推薦入試の準備

一般入試での合格が難しく、推薦入試に懸けている場合、戦略的に入試に臨む必要があります。就職活動において人気企業の入社試験がいくら高倍率でも「宝くじ」だと思っていたら内定が遠のくのと同じです。

  1. 出願資格の充足:①中学生として諸活動に積極的に取り組んだこと、②中学3年時の評定合計が42以上、理科・社会の評定が5、評定が2の科目がないこと、③中学3年間(但し、3年次は12月末日まで)の欠席・遅刻・早退の合計数が5以内であることなどが求められます。
  2. 本人と親の自己分析:①中学生として諸活動に積極的に取り組んだことを客観的に示す事実をできるだけ多く列挙し、②その中で特に周りに良い刺激や影響を与えたであろう事実がどれなのかを検討し、③それらの事実がどういった親の子育ての方針や本人のパーソナリティを反映した結果であるのかを分析する必要があります。
  3. 入学志願書と添付資料の作成:上記2の分析を踏まえて、中学時代に周りに良い刺激や影響を与えたであろう事実、女子高においても引き続き周りに良い刺激や影響を与える可能性が高いパーソナリティを有していること、親の子育ての方針もそれを後押しするであろうことなどが伝わるように入学志願書と添付資料に落とし込みます。
  4. 調査書と活動報告書の作成依頼:担任の先生に調査書と活動報告書の作成依頼をする際は、できるだけ入学志願書の記載との整合性を確保するため、調査書の総合所見や活動報告書に書いてほしい事項などをまとめたメモを添えるのがオーソドックスな方法です。
  5. 適性検査の準備:数学の問題が英語で出題されたり、長めの記述問題や英作文が出題されたりするなど、科目横断的な見識、柔軟な対応力・思考力、文章力などが求められる傾向にありますので、たとえば早稲田アカデミーの慶應女子対策講座などを受講して対策問題集を入手して解いておくと、落ち着いて試験に臨めます。
  6. 面接の準備:上記2~4との整合性に留意した上で、無理に自分を大きく見せようとせずに、面接官と楽しくおしゃべりをするくらいの心構えで臨むのが良いと思います。ただ、落ち着いて面接に臨むためには、早稲田アカデミーの慶應女子対策講座などを受講して過去の質疑応答例を入手してざっと目を通しておくことも有用です。

面接は複数の面接官で行われるものの、面接官と志願者との相性によって多少の評価のバラツキが生じてしまうことは不可避であることを考えれば、偶然性によって合否がある程度左右される試験であることは否めません。そのため、一般入試と併願していてもし推薦入試に落ちてしまっても気を落とす必要はありません。たとえば「他の面接官であれば合格していたはず!少し運が悪かっただけ」と前向きに気持ちを切り替えて一般入試に臨むと良いのではないかと思います。


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慶應義塾女子高等学校の推薦入試は、合否にかかわらず、戦略的に準備を行えば将来の就職活動の先取り学習にもなり、高校時代や大学時代を有意義に過ごす上でも有用です。たとえば慶應女子に興味がありながらも一般入試の難易度の高さなどに気後れしているかたは、ぜひ推薦入試に挑戦することを検討してみてください。