50年近く前、北新宿に住んでいたころ、

新宿東口の新宿通りと靖国通りをよくうろついていた。

とりわけ多く立ち寄ったのは紀ノ国屋書店新宿本店。

浜松から出てきたわたしからしたらとんでもなく大きな本屋だった。

この頃、御茶ノ水の三省堂、八重洲の八重洲ブックセンター、

とたてつづけに巨大書店が開店していた。

 

紀ノ国屋書店新宿本店は、

奥に向かって細長く、

8階まであり、上にも細長い。

左わきの狭い階段を使って上がってゆく。

相変わらずだ。むかしと変わっていない。

 

ただ、ここは、記憶では、本よりも、カレーだ。

ここに来るとカレーが食べたくなっていた。

細い階段から地階のカレー店の匂いが漂って来ていたのだ。

いまはその香りは感じられない。

カレースタンドがあって、紀ノ国屋の上階まで匂いが漏れていたのだ。

何度か食べた。

店の名前は「モンスナック」。

いまもある。

スタンドではなくもうすこし大きい専門店として。

何度か食べた。

ここのカレーはピシャピシャ、サラサラのカレー。

とろっとしたカレーしか経験がなかった田舎者にとってはカルチャーショツクだった。

ここのピシャピシャのカレーと、

ちなみに、紀ノ国屋の前にある中村屋のカレーも、

田舎にはない本格カレーでびっくらこいた覚えがある。

 

紀ノ国屋書店は、1927年、田辺茂一がここに創業した。

最初っから上階にギャラリーを併設し、

他の書店では手に入りにくい同人誌、文芸誌、文学書、学術書を多く取扱い、

文化の発信基地の役割を担ってきた。

 

むかしは狭くてごちゃごちゃした感じがあったが、

いまは改装されてけつこうすっきり、ゆったりしている。