80回目の終戦記念日が過ぎた。
先日の参議院選で新たに当選した正式な軍備を厭わない新しい政党の面々が、
つぎつぎと靖国の鳥居をくぐってゆく姿が映し出された。
人は体験を重ねることで磨かれる。
政治の新入生が「失われた30年」のあとの日本の行く末をリードできるとは思えない。
日本人は何が強みでこれからはどこにチャンスがあるのか
を明示できる者の登場を切に望む。
WOWWOWでフランスのミステリーを観ていた。
刑事の娘は日本に留学していた。
身の安全を考えろと忠告する父親に対し、
娘は「ここはどこだと思っているの。世界一安全安心な日本よ」と返した。
マズローの欲求五段階説という理論がある。
第一に生理的欲求。生きる欲求が満たされている。
第二に安全欲求。身の危険がない。
第三に社会的欲求。社会、集団に所属したい、できる。
第四に承認欲求。他人から認められたい、認められる。
第五に自己実現欲求。自分が満足する自分になれる。
日本は、第一の生理的欲求、第二の安全欲求が、
世界で一番実現できている国だ。アジアと比べ、欧米と比べても、優れている。
大手量販店とか、カルディとか、ダイソーとか、業務スーパーとか、で、
輸入された食品、日用雑貨、家電製品、住宅設備品、などを手に取る。
不安、疑い、がまずきてしまう。
品質は安全安心なんだろうか、使い勝手はよいだろうか…。
聞いたことがあるブランドでも…。
池井戸潤の小説、ドラマを観てもわかるように。
日本人は、外国人と比べるとみんな凝り性だ。
どんなものにも、品質、使い勝手のよさを極めようとする。
改善に改善を繰り返す、失敗しても決してあきらめず。
体制を全部変えてしまう「革新」ではなく「改善」の限りを尽くし、
やがて外国が到達できない位置に至ってしまう。
久々に政治への関心が上がった。
2025参議院選挙の投票率が示していた。
参政党、国民民主党…新しい政党の声がよく聞こえてきた。
消費税を下げる、課税基準を上げて手取りを増やす、中国人の流入を抑制する…
新しい政党は、消費者のいまの関心ごとにストレートに答えて、支持を増やした。
でも…。
30年間経済発展を止めていた日本の、
これからのチャンス、強みは何で、
これからの日本が目指す目標、あるべき姿はこれ、
それを実現するための政策の骨子はこう、
という話はどの政党からも聞こえてこなかった。
(どこかで語っていたかもしれないが聞こえてこなかった)
国民の代表者である国会議員を選ぶ選挙なのに。
評論家たちが大衆迎合(ポピュリズム)と口を揃えることばかりが訴えられて。
過去の政治家たちは、新体制が選択される機会の前に何と言っていたか…。
坂本龍馬は「船中八策」を同じ土佐藩の後藤象二郎に授けた。
・政権を朝廷に返還し、新たな法は朝廷より定められる(大政奉還)
・上院・下院の二院制を敷き、議員を置き、全てを公的に議論して決定する(議会開設)
・有能な公家や諸藩、無名の人材たちを政治に参加させ、名ばかりで実の無い者たちを取り除く(官制改革)
・外国との交流は、広く意見を求めることで、新しく規約を決める(条約改正)
・昔からの良いところをまとめ、永遠に伝わるような新しい法律を定める(憲法制定)
・海軍を拡張する
・朝廷のための兵を置き、都を守らせる
・金や銀や通貨などの為替に関し、外国と平等に取引き出来る法を定める
日本がこれまで2度しか体験したことがない初めての「外圧による革新」の時代に、
革命に近いことを具体的にほぐしてはつきりと語っている。
2度目の「外圧による革新」のとき。つまり第二次世界大戦敗戦のあと。
GHQの指導を受けながら金森徳次郎は「日本国憲法三大原則」をこう整えた。
・国民主権
国の政治のあり方を決める権利は国民にある。大日本帝国憲法では天皇に主権があったが、日本国憲法では国民が主権を持つと定める。
・平和主義
戦争を放棄し、武力による威嚇や行使を国際紛争の解決手段としない。戦力は保持せず、国の交戦権は認めない。
・基本的人権の尊重
すべての人が生まれながらに持っている人間らしい生き方をする権利を尊重する。
いまの日本人の原理原則だ。
「戦力は保持せず」の名言は、人類の歴史ではじめてのことだ。
しかし、人間は殺しあい続けることが歴史によって証明されている。
なので、その解釈、認識のしかたはいまだに議論が続いている。
ちなみに、今回勢力を急拡大させた参政党は自衛のためではない「軍備」を
うたい、東京で2番目に当選した同党女性議員は「核装備が安上がり」とまで言った。
そして。1960年。池田隼人の「所得倍増計画」
大幅な減税を続ける。
同時に、日本の強みを生かした以下の経済政策を進める。
・鉄道・道路・港湾・工業用水道など、相対的に立ち遅れたインフラストラクチャーの整備。
・産業構造の高度化、工業化への誘導、生産性の高い部門へ労働力の移動。
・自由貿易の推進と強みの重化学工業による生産性向上により国際競争を勝ち抜く。
・人的能力の向上と科学技術の振興により、従来経済と切り離されていた教育・研究などの文教問題を経済成長と関連付け、文教政策に積極的に取り組む。
・二重構造の緩和と社会的安定の確保。経済的成長の背面に噴出が予想される産業構造の転換にともなう摩擦的失業、資金格差などの問題への対処。福祉の推進。
この政策により、高度成長期からバブル景気までの30年間、
日本は「ジャパンアズナンバーワン」と呼ばれる世界第二位の経済大国にのしあがる。
同じころに打ち出された、かつては強かった日本社会党の江田三郎のビジョン。
日本が目指すべき未来像として簡潔に4つを示した。
・アメリカの平均した生活水準の高さ
・ソ連の徹底した生活保障
・イギリスの議会制民主主義
・日本国憲法の平和主義
簡潔なのにわかりやすい。これは世論の圧倒的な支持を得た。
現実としてこの4目標はほぼ達成されたと言えないだろうか。
「江田ビジョン」に脅威を覚えた田中角栄が打ち出した具体論「日本列島改造論」
・日本全国での工業再配置
・交通・情報通信の全国的ネットワークの形成
・以上をテコにして、人とカネとものの流れを巨大都市から地方に逆流させる
バブル崩壊後の経済停滞から脱出すべく打ち出された安倍晋三の「アベノミクス」
第一の矢:大胆な金融政策(低金利の維持、量的金融緩和政策、リフレーション)
・日銀の国債大量買い上げ
・2%のインフレターゲット
・無制限の量的金融緩和政策
・円高シンドロームの是正
・日本銀行法改正
・日本銀行の買いオペレーションを通じた国債の買い入れ・長期保有
第二の矢:機動的な財政政策(公共事業、ケインズ経済学)
大規模な公共事業(国土強靱化)
第三の矢:民間投資を喚起する成長戦略(イノベーション政策、サプライサイド経済学)
・「人生100年時代」から創造される成長産業
・一億総活躍
・若者のチャレンジ
・女性活躍社会
・NISA(少額投資非課税制度)
・海外の成長を取り込む観光立国
具体的のようにみえて、わたしのような経済オンチには、よくわからない。
ストーリーとして語り直してもらえばわかるかもしれないが。
しかし。結果として、経済は、「失われた30年」と言われたままだ。
わたしは政治家でも経済学者でもない。
マーケティングを37年やってきただけだ。
その小さな経験から、
片隅の凡夫が、これからの日本のチャンスをこう思う。
第一に、大衆のいまの関心ごとに焦点を絞ってもいいが、いまの政治家は、
まず、30年間経済発展を止めていた日本の、これからのチャンス、強みは何で、これからの日本が目指す目標、あるべき姿はこれ、それを実現するための政策の骨子はこう、とはっきりと強く示してほしい。
坂本龍馬が、木戸孝允が、金森徳次郎が、池田隼人が、江田三郎が、田中角栄が、そうであったように。
ポッと出の新政党には出せないはずだし、出したとしても薄っぺらだ。
自由民主党、立憲民主党、国民民主党あたりの、十分に経験を積んだ者から発せられてほしい。
第二に、そのあるべき姿の最初の柱になるべきは、唯一の被爆国として、
「世界一安全安心な国で居続け、世界一安全安心に影響力を持つ国になる」ではなかろうか。
平和を希求する対話を何十倍にも増やしてほしい。
そのうえで、
核戦争というより戦争を起こさせない新しい人殺し抑止力の開発・整備にはいってほしい。
荒唐無稽かもしれないが、小さい頃、映画やテレビに出てきた「地球防衛軍」をつくってほしい。
よくSFで出てきた宇宙空間からのレーザー光線で強力な武器を破壊してしまう衛星網をつくってほしい。
イランの地下核施設を破壊したステルス機とバンカーバスターも、持つとしたら日本であるべきと思う。
第三に、もうひとつのあるべき姿の柱は、「世界一「改善力」のある国」ではないか。
日本は天然の要害「海」に囲まれ、みんなで仲良くやってきた民族だ。
ゆえに、失敗しても失敗しても、改善に改善を重ねて、すごいものに仕上げていく力は、世界一だ。
体制を一新する「革新」は理屈は学んでも実際にはできない。
「革新」は、模倣・応用を基本とし、それを世界一優れたものへと「改善」する力をもつ民族になればよい。
なので、「みんなで力をあわせて改善を繰り返そう」の空気を削ぐことになる「雇用の流動化」は一考すべきだろうし、
併せて、これまでより、貪欲に、海外に学ぶこと、異業種で学びあうこと、を奨励すべきだ。米国であろうと、中国であろうと。