JR水道橋駅の近くに「尚武堂」という店がある。
剣道、柔道、空手などの武道用品だけを取り扱っている。
めずらしい。
高校のとき。柔道部にいた。
といっても数カ月。
腰椎分離になり退部した。
黒帯はなんとかとった。
役所広司が演じた嘉納治五郎を描いたつもり。が、ぜんぜん似てない。
少年時代を過ごした浜松には、柔道用品の専門店はなかった。
武道用品は、スポーツ用品店の奥にひっそりと在庫されているものだった。
こんな浅い経験で柔道のことを語る資格はないのだが。
柔道で学んだことがある。
前後上下左右、動かすこと。
そうすることで相手は抗う。
その抗いがあってはじめてそれに乗じて投げる機会が生まれる。
剣道や空手は先手必勝が重要なのだろうが。
交渉、商談でも、同じことがいえる。
待っているだけではなかなか機会はやってこない、敵失はそうはない。
自分が動く、相手を動かすことで、機会をつかむ。
最初から組んではじめるたたかいに共通する原則かもしれない。
きょうも。
優しいと言い難い面構えの嘉納治五郎が、
講道館の玄関前で仁王立ちしている。
後楽園あたりを歩くと、武道、格闘技の接点が多い。
いかつい外国人たちもたくさん出入りする講道館。
東京ドームシティの一角にあるビルの「後楽園ホール」。
ここは、四角いリングを中央におく格闘技会場だけでなく、
「笑点」の収録会場であり、ボウリング場であり、巨人軍選手が通う後楽園飯店もはいっている。
水道橋駅前のビルにいつも掲げられているプロレスレスターの巨大広告ももはや名物。
水道橋駅の南側に行くと「闘魂グッズ」店。以前はプロレスファンが集まる居酒屋もあった。
水道橋駅から北に延びる白山通り沿いには「尚武館」「東海堂」などの武道具店が並ぶ。
柔道・空手・剣道などの用具が取り揃えられた大きな専門店だ。
なせ後楽園あたりは、武道・格闘技の接点が多いのか。理由は大きく二つ。
嘉納治五郎が創始した世界の柔道の総本山「講道館」が開設されたところだから。
後楽園球場ができるよりまえのことだ。
そして。格闘技の聖地「後楽園ホール」があるから。
1962年開業の後楽園ホールは、
ボクシング・プロレス・キックボクシングなど年間約400件近い格闘技興行が行われている。
プロボクシングは日本の全試合の半分がここで開催され、世界タイトルマッチも行われている。
女子プロボクシングも大半がここで実施されているらしい。
プロレスも新日本プロレスなど複数の団体が定期的にここで興行を行っている。
そもそも後楽園ホールは講道館水道橋道場の跡地に設立されたボクシングジムが起源らしい。
エンタテイメントも後押しした。講道館の柔道家の四天王の活躍が紹介され、
とくにそのひとりをモデルとした黒澤明の処女作「姿三四郎」が大ヒット。
「あしたのジョー」をはじめとするたくさんの格闘技漫画で後楽園ホールがとりあげられつづけている。
怖くて近寄りがたい武道・格闘技だが、立地・利便性のよさが、その障害を超えさせた。
JA水道橋駅前であり、複数の地下鉄路線が乗り入れる春日駅の上、
東京ドームと東京ドームシティ(アミューズメントパーク&ショッピンクセンター)という全世代を魅了する巨大な集客装置の存在が、武道・格闘技を身近なものにしている。
水道橋、後楽園をうろうろ歩いたら、フラフラになった。
65歳。35度猛暑。気を付けよう。