御茶ノ水の明治大学の前。YWCAビルの端に。

小栗上野介忠順生誕の地という碑がある。

写っている顔は、のつぺりとして、穏やかそうで、すごい人には見えない。

そもそも目立たない。わからず通り過ぎてしまう。

坂本龍馬を英雄にした司馬遼太郎が「明治国家の父」と讃えている。

小栗家は三河以来の徳川の直参旗本である。

 

小栗上野介忠順は2027年NHK大河ドラマの主人公。

松坂桃李が演じる。

 

幕末。欧米列強に囲まれた日本。

新たな求心力をたて、薩長土か、幕府か、で押し寄せてくる列強諸国と付き合っていこうとした。

坂本龍馬、勝海舟は、薩長土と幕府の内乱闘争を阻止して列強につけ入る隙を与えず対応しようとした。小栗忠順は、薩長土を退けた幕府が強い力で列強と交渉していこうとした。

坂本も小栗も方法論が違うだけで、

当時の欧米列強は内政で分裂した勢力に乗じて利権を得て虫食いのように植民地化していく政策をとっていた。そんな列強につけ入る隙を与えず、生き抜いていこうとした点では同じだ。

 

自民の諸政策に異を唱える新党への支持が想像以上に大きく、

2025参議院選挙は政局が変わる波乱を含み始めた。

SNSへの主役メディアの交代、30年もの長き経済停滞、が背景にある。

 

小栗忠順のような人が、いまの日本にいたらどうか。

幕末時の外圧の受け方とはくらべものにはならないかもしれないが、

中国・ロシアの脅威、北朝鮮の核武装、そしてトランプ関税、の安全安心とは言えない環境のなかにいる。

そろそろ「外圧」環境下、30年進化を止めていた日本の新たな行く先を明確に示し、そこに根差した戦略・戦術を組み立て、その展開に乗り出せる、そんな政治家が必要になってきているのではないか。

 

この2025夏の参議院選。そのきっかけになればと思う。

未来を託せるリーダーをこの選挙で選ぶというわけではない。

政治経験が浅く、消費税、社会保障体制、中国人流入、RGBTなどをとくに声高に叫び票を集めた人に期待はできない。

選挙の結果、従来の党派を超えて政治集団の再編が起こり、その新集団が日本の新しい行く先を示してくれればいい。

つまり、この選挙で登場してきた浅い知見・体験に留まっている人よりも、これまでに豊富な政治経験を持つ人が熟慮の上で打ち立て、そこに人が参集し、強く大きな力となる。そんなイメージだ。

 

なので小栗忠順だ。

彼は、ナポレオンの法則どおり「歴史とは後に勝者の合意した物語」に沿って、のちの「明治国家の父」と見直されるまでは、1868年領地である上野国群馬郡権田村で斬首された旧体制側の「悪者」だった。

彼は、政治と世界については、おそらく、当時の日本では、一次情報(自身の体験)、二次情報(他者から得た情報)ともに、最も豊富に持つ人だった。

もともと外国人との交渉経験を積んで、1860年日米修好通商条約批准のため米艦ポーハタン号で渡米し、地球を一周して帰国した。ワシントン海軍工廠を見学した際、日本との製鉄及び金属加工技術などの差に驚愕し、記念にネジを日本へ持ち帰った。後に世界が驚嘆する「モノづくり日本」のはじまりだ。

以後、政治の要職を次々に務めていく。目付、外国奉行、勘定奉行、南町奉行、歩兵奉行、陸軍奉行、軍艦奉行...。たぶん当時これほど政治を知り尽くした者はいなかったろう。

彼は、日本の思想・文化を大切にしながら、列強に侵略されない、新しい強い日本をつくりあげる決意をした。

急速に先進の西洋文明を取り込むためフランス公使レオン・ロッシュと組んだ。

強い国になるためには鉄で強くならなければならないと、横須賀製鉄所をつくった。

軍事力強化のため幕府陸軍をフランス軍人に指導させ、同時にフランスから、大砲、小銃、軍服などの大量の兵器・装備品を発注した。

財政再建にも取り組んだ。列強と不公平条約が結ばれ、日本の金銀銅などの資産が大量に流出する破目に陥ったため、貨幣価値の見直し交渉や関税率改訂の交渉に尽力した。

フランスとの経済関係を緊密にした。

近江、大阪、伊勢の三都商人と組んで日本全国の商品流通を掌握し、大金を動かせて列強との貿易を一手に取り仕切る兵庫商社を作った。のちの三井物産だ。これにたいし坂本龍馬が土佐藩に働きかけて海援隊というライバルを設立し、のちに岩崎弥太郎が乗って三菱商事となっていく。つまり、即席めんからミサイル、石油プラントまで取れ扱う「総合商社」の誕生だ。

 

30年以上眠っていた日本をたたき起こすには、

この小栗忠順なみの力をもった人があらわれてリードしていかなくてはならないだろう。