今回は、65歳で自営仕事を隠退するにあたっての記念の「卒論」ばなし。

いままでしてきたマーケティングの仕事からの15の感想をまとめた。

なので、長くて、こむつかしくて、つまらない...。

ホームページを一新して書こうと思ったら、うまくいかず、

じゃあブログにのっけちゃえ、てことでここに入れてしまった。

 

 

「体験」がないと作られない

してきたマーケティングの仕事を振り返って

 

1.「体験」がないと作られない

2.「体験」は発見を生む

3.全コストの負担者

4.市場の関与者構造を知る

5.消費者と消費者接点を体験する

6.聞く

7.需要をつくる、効率を上げる

8.未知の一次情報を準備する

9.4つの営業を組み合わせる、体験が決め手になる

10. 改善しながらのPDCAを回し続ける

11. 「革新」ではなく「改善」

12. マーケティングマインド、応用、体験者体制で新事業創造

13.分けた役割をつなげる

14. 自分たちは何者か、顧客の笑顔、やらまいか

15. 「外圧」に触れ続ける

 

 

1.「体験」がないと作られない

 

人は「体験」がないとつくられない。

 

脊柱管狭窄症で常に下半身が痺れ、身体を使った「調査」が思うようにできなくなった。

組織の人を変える手伝いを37年間させてもらってきたが、現場の「調査」を基本としていたわたしは隠退することとした。

そんな現場で働いてきたわたしが、37年の感想としていちばんはじめに言いたいことは「体験」の大事さ。

 

12歳までの小学生の頃、わたしはこんな記憶をもっている。

浩宮(天皇陛下)と生まれた時が近く、顔も似ていたわたしは「泣き虫の浩宮」と呼ばれていた。

近所の裏庭の竹林からタケノコを引き抜いてきて母親と一緒に謝りに行った。

町の一角にある長屋の入口で、時々一緒に遊んでいた友達たちにある日突然腹を殴られた。

隣の小学校との境にある公園を、自分たちの遊び場にするために、隣小学校の子たちと石を投げ合い力づくで奪った。

夏休みに、交通量調査をして大きな模造紙にカラフルなグラフを書いて発表したらそこに歩道橋が立った。

尊敬しているN君のすすめで水泳をはじめたら大会で優勝し、表彰台の一番上にのぼった。

N君のリードで、川や海に遠出したり、特訓と称して冬に温水プールに通った。

学校の成績が悪くて通信簿をもらう度に母親にびんたをされていたが水泳で勝ったときだけ褒めてくれた。

 

先生から言われたこと、本で読んだこと、まったく思い浮かばない。

記憶に残っているのはすべて「体験」。わたしだけだろうか。

 

人は、記憶にきちんと残る現実の五感の「体験」によってつくられる。

人が整理した情報を吸収することは大事だが、それだけでは、人の思いや行動はつくられない。

 

「一次情報」と「二次情報」という言葉がある。

一次情報とは、自分の五感の「体験」によって得られた情報。狭く深いため、記憶に残り、思い、行動を変える力をもつ。いま、家に、娘夫婦の子の赤ん坊がいる。赤ん坊も「体験」の一次情報を吸収することでつくられてゆく。それがよくわかる。

二次情報とは、他人が整理した情報。人の言葉、論理、整理したデータで、広く浅いため、知識の足しにはなるが、思い、行動を変えるには力不足。これからは、AIの普及によって二次情報ばかりの世の中になっていく。

 

 

2.「体験」は発見を生む

 

「体験」も、人の言葉やデジタルデータも、知見を豊かにする。

ただ、人が整理した知見では得られず、「体験」でしか得られないものがある。発見である。

 

人の頭は「左脳」と「右脳」でできている。

左脳は、論理を動かし、右脳は、感覚を動かす。

両者は完全に分離しているわけではなく、連携しながら働いている。

赤ん坊は、感覚の「右脳」で動き、成長ととともに論理の「左脳」が発達する。

 

五感の「体験」は、感覚を司る右脳によって処理される。

だから、それは、「蓄積」でなく、感性を帯びた「発見」になる。

これからは、AIの普及によって、左脳がフル回転する。人がつくった知見の蓄積でいっぱいになる。

 

同じ売場を3回も4回も行ったり来たりしているおばちゃん。

グループインタビュの丸テーブルの端でいつしか涙を流している若い女性。

日に何度も来てあてどなく売場をめぐるおじいさん。

キレイに整理整頓されたこじんまりした家でBMWのドアを閉める音を熱く語る青年...。

仕事を通じて無数の生々しい人を体験してきた。

 

AI推進者からすれば、

固有のリアル「体験」も、人の言葉やデジタルデータも、いずれすべて AIに取り込まれていく、という。

勉強不足のわたしの「体験」(一次情報)偏重の考え方なんかは、かるく吹き飛ばされていくのかもしれない。

 

でも間違いなく言えることがある。AIは、あくまで人をたすける者として居つづけないと、人間の世の中が消えてしまう。

 

本を読む、ネットから情報を得る、AIにたすけてもらう...。それは、重要なことだが、新しい発見を得ようとしたら、

自分の五感で、その事象に接し、そこで見つかった事実、感性を帯びた発見から、自分で体系的な整理をして、実際に行動に移してみる。そのほうがもっともっと大事なことではないか。

 

 

3.全コストの負担者

 

「全コストの負担者」という言葉がある。

 

わたしの師匠の水口健次が物事の最初に置く言葉と言っていた。

もとは、「経営の神様」と呼ばれたピーター・ドラッカーが言っていたそうだ。

勉強嫌いで、通信簿が3と4ばかりで母にびんたをされ続けたわたしにとっては、

この「全コストの負担者」という言葉は、働いていく上での最大の救い、拠り所となった。

こんな意味だ。

我々が掛けたすべてのコストを最終的にすべて負担してくれている人を消費者という。

だから、自分たちがしたいことを実現させるためには、「全コストの負担者」=消費者の事実から考え、動けばいい。

 

「市場経済」と「計画経済」いう言葉がある。

 

「市場経済」は、財・サービスの取引が自由に行われることでその国・経済は豊かになる、という考え方。

もとは、英国のアダム・スミスの「国富論」だ。中学の世界史の時間に最初に習ってからときどき耳にする。

「見えざる手」によってそうなると言いきっている。このいい加減な表現がわたしには心地よい。

「自由主義」ともいう。政治の言葉に言い換えると、みんなで話し合って決める「民主主義」というこになる。

「計画経済」は、それと対立する考え方で、国家が取引の仕方を決めていくことだ。

現在、世界の多くの国は、「市場経済」を選択し、成功している。

計画経済は北朝鮮、キューバぐらいだけかもしれない。

中華人民共和国のように国家の統制が強く働く、全体主義、独裁的な「市場経済」国もなかにはあるが。

 

「全コストの負担者」は、「市場経済」をあらわした言葉のひとつだ。

われわれは、市場経済の最大最強の権力者である「全コストの負担者:消費者」を、

五感で「体験」し、計画し、展開する。それを繰り返し続ける。

その姿勢を貫く。

「全コストの負担者」という言葉は、わたしに、そんなシンプルな生き方を指し示してくれた。

 

 

4.市場の関与者構造を知る

 

「全コストの負担者:消費者」を、五感で「体験」し続ける。

しかし、「全コストの負担者:消費者」がいる市場は、いろいろな関与者が関わって存在している。

それぞれがそれぞれの思惑を持ち、影響力を行使している。

人は、生きているというよりも、生かされている。

 

そんな市場の関与者を並べる。

 

いちばん大事な「全コストの負担者:消費者」がいる。

 

その隣には、その消費者に財やサービスを提供している「消費者接点」がいる。消費財なら小売業、中間財・生産財であればサービス業、情報業者であればプラットフォーマーということになる。

 

その隣には、その消費者接点の財やサービスの調達を手伝う「中間者」がいる。中間流通業とか卸売業ということになる。

 

その隣には、財やサービスをつくっている「生産者」がいる。

 

それ以外に、それらの人たちの意思決定に影響を与えている「影響者」がいる。影響する者すべてを指す漠然とした存在だ。

 

合計で5人。どの市場にもいる基本的な市場の関与者だ。

 

いつも怒っていた師匠の水口健次は、この5人の関与者の構造を「ペンタゴンモデル」と呼んだ。

なので、実際は、「全コストの負担者:消費者」だけでなく、

5人の関与者を、理解しておく必要がある。

もつといえば、その環境も知っておく必要がある。

調達先、競合者の動向であり、政治、経済、社会、技術の変化だ。

 

ビジネスをするということは、このように教科書にしてしまうと、知っておくことべきが多すぎる。

 

 

5.消費者と消費者接点を体験する

 

実際。すべての関与者を具体的に知るのは大変だ。

だから、実際に五感の体験として情報収集するのは、優先順位で、二つに絞ればいい。

第一位の全コストの負担者:消費者と、第二位の消費者接点に。

あとの関与者たちは、人や言葉やデジタルデータからの情報収集で済む。

それで、二次情報ばかりを詰め込んだ他の知識人たちよりも、ずっと深い「体験」情報からのアウトプットができる。

 

全コストの負担者:消費者を体験する。

観察する。対象の人たちが、接点を通過し、立ち寄り、商品を選び、購入する様子を見て、記録することだ。以前は、消費者を追尾して記録した。いまは、カメラで撮って後に解析したり、売場のメンテに即反映させたりする。

聞く。基本的に2種類の質問をする。

第一に、商品の認知・経験の様子を聞く。浅い認知か、強い認知か、利用した経験があるか、ときどき利用しているか、ずっと利用し続けているか、だ。A(アウエネス):選択肢をみてこれは知っている、M(メモリー):〇〇といえばこれと記憶している、T(トライ):利用したことがある、U(ユーシジ):ときとぎ使っている、L(ロイヤル):いつもこれを使っている、とほぐして聞く。

第二に、5WIHで掘り下げる。いつ、どこで、だれに、何を、なぜ、どのようにして、の質問を重ねるということだ。

このままストレートに聞くわけではない。結果としてこれからのことが見えてくればいい。

大がかりに調べなくてもいい。モデル拠点に行って一定時間観察したり聞いたりすればいい。特定の対象を説得するためなら、それだけで十分に事足りる。

 

消費者接点を体験する。

観察する。観察対象が接点のスタッフになるため、接点の片隅から見ているか、カメラで撮ってあとで解析すればいい。

聞く。「キーマン課題ヒヤリング」と呼んでいる。消費者接点で意思決定している各階層、職種の人に「課題認識」を聞く。

「課題認識」とは、会社・部門の方針、自分の問題・課題認識のこと。

「課題」を聞き、そのお役立ちの提案・行動がとれて、初めて、自分たちがしたいことができるのだから。

得意先企業の組織、意思決定キーマンを捉えておくことが前提になる。担当者が言っていることが一番大事であろうが、できれば意思決定にかかわる人すべてに聞く必要があるからだ。

何十年も現場に立ち会わせていただいてきて言えることは、得意先の各階層・職種のキーマンとコミュニケーションできているほど、営業実績も高い。

 

 

6.聞く

 

語りたい人がたくさんいる。

自分のこと、話題のこと、みんなが知らないこと...。

こちらが語らなければ、どんどん語ってくる。

「不安」だから。

ネットで専門家にその訳を聞くとそういう回答がくる。

 

「自由主義」の常識からすれば「自分の考えを語る」ことこそあるべき姿なのだろう。

それでも、わたしは、「聞く」こそコミュニケーションの基本と思う。

聞く、聞き続ける、熱心に聞く、ときには、同調する、相手が語ることに実例を示して乗っかる。

5W1H(いつ、誰、どこで、何を、なぜ、どのようにして)を無理なく適宜挟めば、深く深く知れる。

 

一見話すことが仕事のようなセールスマン、交渉人、コンサルタント…

そんな役割に就きながらも、自分には向いていないと思っている方々。

「語る」のではなく、「聞く」に徹すればいい。仮に相手から聞かれても、聞かれたことだけにきちんと答えればいい。

 

わたしは、共働きの家に生まれ、小学六年生のときに兄妹ができた。つまり、一人っ子で、鍵っ子だった。家族のコミュニケーションにあまり接してこなかった。なので、人に、話すこと、主張することが苦手だ。

「集団行動が苦手。会議やグループディスカッションで他の人と意見交換をするのが苦手で、距離を置こうとする」

「社交的な場面での適切な振る舞いがうまくできない」

「音に対して敏感で、些細な物音が気になって集中できない」

いまでも。ネットの「自閉症」診断をやってみると、この3つに〇がつく。

 

こんなわたしが、消費者グループインタビュを重ね、1000人近いキーマン課題ヒヤリングと1500店の消費者接点調査をして、

メーカーの方々や、消費者接点のみなさんが集まる会で報告し、課題の指摘をし、ディスカッションしてきた。

すべて「聞く」を基本として、「語る」は最小限にして。

いまでもときどきグループディスカッションの場に連れてこられそうになり、逃げ続けている。

 

 

7.需要をつくる、効率をあげる

 

二十年にわたって1000人近い消費者接点キーマンの課題ヒヤリングをしてきて、

消費者接点の彼らが持っている課題は、いつも、大きく2つあると判断している。

「需要をつくる」と「効率を上げる」だ。

 

消費者接点の課題のおおもとは「利益確保」だ。「市場経済」の宿命だ。

「利益確保」は、その手段として「需要をつくる」と「効率を上げる」に分かれ、それぞれに無数の手段=課題に分かれる。

これを「課題ツリー」と呼び、すべての消費者接点キーマンの課題はこの大きな課題ツリーのどこかに所属する。

 

消費者接点のキーマンから発せられる課題認識の数は膨大だ。

たとえば、わたしは、2011年には、93社で794件、2017年には、90社で1081件、2022年には、37社で496件、確認している。所属する階層・部署、その年、によってさまざまだ。

 

ただ、確認できている二十年にわたる消費者接点の課題も、共通傾向はある。

たとえば、トップは、近年、SDGs関連のことを言う。長期的な需要創造の手段として語られている。

バイヤーや売場担当者は、ロス撲滅、コスト削減、省力化を言う。消費者接点には接客者がすごい勢いで減ってきている。

オリジナル商品開発も増えた。もうメーカー主導の時代ではなくなった。

 

「利益確保」が最終目的である限り、「需要をつくる」「効率をあげる」は表裏一体だ。

たとえば、得意先担当者に近年課題ヒヤリングをすると「納価抑制」が多出する。「納価抑制」は、「需要をつくる」ことと、「調達コストを下げる」の両方が含まれている。もちろん、得意先担当者は会社の指示に従っているわけで実際は「安く売って需要をつくり粗利を上げる」か「原価率を下げて利益の出る体質にする」に振れて発信される。

つまり、消費者接点の課題の解決は、課題お役立ちの姿勢で、いくつものシナリオを持ってのぞむ必要がある。。

 

いつの時代もそうだ。たとえば、江戸時代の「改革」は、だいたい「質素倹約」、つまり「効率」だった。

田沼意次だけ「需要をつくる」と「効率を上げる」の両方をやって、金権腐敗政治と言われた。吉宗も、定信も、忠邦もやらなかった取引制度自由化、北海道開拓、海外貿易などの「市場経済」化に手をつけ、幕府を財政破綻から救おうとした。

そして、ナポレオンが指摘した「歴史とは後の勝者の合意の物語である」の法則にのっとって、悪者となった。

 

 

8.未知の一次情報を準備する

 

「段取り八割」。よく聞く。

 

孫子曰く。「勝敗は戦う前に決まっている」。

エイブラハム・リンカーンも言う。「木を切る時間が6時間与えられたら斧を研ぐのに4時間使う」。

イチローが書いている。「自分にとって大切なことは、試合前に完璧な準備をすることです」。

ある調査結果によると。「準備をしなかった時の商談成功率は28.8%。準備したときは61.4%」。

高校時代の喧嘩が強い友人は、対戦相手の規模によっては退散させるために腹に晒を巻き匕首をさしてのぞんでいた。

 

「ソリューション」。課題解決のことで、事前に相手の課題を把握しそのお役立ちの提案をするという意味だ。

「Z話法」「顧客はまずNOという」。相手の課題を把握してお役立ち提案するが、相手はまずNOという。なので、そのNOを想定しておき、説得材料や代案を準備しておく。そういう意味だ。

これらもよく聞く言葉だ。

 

しかし、すでにある知見から、NOを超えるための説得力を準備しても、目的を達するのは難しい。

準備をしてのぞんでも、多くは、「わかっているよ」になる。

それは、相手にとって「既知」の情報だからだ。

内外のネットから入手できる環境変化、トレンド、売れ筋、販売データなどの情報、そして、社内外、競合他社からすでに伝えられている情報…、「既知」の情報は膨大にある。そのほとんどは人やコンピュータがもたらした二次情報である。

前提として、そのときの上司と個人の情緒も作用しているだろうから、なおさらだ。

 

既知の二次情報ではなく、未知の一次情報が要る。

 

人やネットがもたらしいくれない、他にないオリジナルのリアル「体験」調査情報を準備するしかない。

たとえば、多数の有力消費者接点キーマンに聞いた課題トレンド、対象接点が意識する競合接点や先行接点の売場レイアウト、棚割、客動線、注目商品の品揃え・価格、などの調査データと、それらと対象接点を比較しての強み・弱み。

大層な情報量で準備しなくても、営業の習慣として、必ず、対象と競合や先行の接点を簡単に調査して課題提示するようにすればいい。最近は、接点を画像として残せるところも多い。過去と比べればずっと刺激的な課題提示ができる

 

 

9.4つの営業を組み合わせる、体験が決め手になる

 

37年間で、メーカー、中間流通の15社の営業部門のお手伝いをさせていただいた。

多くは、実際の重点の消費者接点にたいするP(計画)D(実行)C(検証)A(対応)のお手伝いだ。

社内の営業会議に参加してそれぞれのプロセスでのアドバイスをさせてもらったり、

お役立ち提案にもっていくために対象の消費者接点の意思決定者への課題ヒヤリングを協働で実施したり、

消費者接点の未知の課題を発見し、お役立ち提案に活用するために、売場レイアウト、棚割、客動線、などの売場調査、来店する消費者を追尾する客動線調査、出口アンケート調査などを協働で実施したり、

実際に消費者接点との商談、調査報告・戦略提案会に参加させていただいたり、時には酒を酌み交わしたり。

 

そんなふうに営業の皆さんと行動をともにしてきて、営業というものは4つ、と思った。

第一に「人脈づくり」。対象企業および関連組織の組織、意思決定キーマンの課題、を把握し続け、営業活動に生かす。

第二に「会社力」。自ブランドの価値を熟知し、経営機能や関連資産のすべてを活用して営業活動に生かす。

第三に「非価格の課題解決」。対象企業の非価格の課題を把握しお役立ちをすることで自社の実績を拡大させる。

第四に「コストの課題解決」。年々強まるコスト抑制課題へのお役立ちをすることで自社の実績を拡大させる。

営業は、この4つを組み合わせて展開することになる。

 

生産者が市場の支配者だった昭和のころは、「会社力」の営業だった。

消費者および消費者接点に支配権が移ったバブル以降は、4つの営業を巧妙に使い分けなければ成果はあげられない。

 

さらに。コロナ禍と、消費者接点の効率・省力化、が営業を変えた。

内外のすべての人と人が顔をつきあわせての接触が減った。

その結果、オンラインを通じての二次情報のやりとりは増えたが、オフラインでのリアルの一次情報のやりとりが急減した。

いちばん最初に記したように、五感の「体感」をともなわない情報は、蓄積はされても、深く記憶されない。

商談してもあっさりと終わる。大事な提案も頭の中をかんたんに通り過ぎてゆく。

今後は、この状況がさらに進展する。

これからは、あえて、「体験」をともなう営業活動を組み込んでゆく必要がある。

AIも活用した豊富な二次情報の提示よりも、生産する、使う、食べるの体験の共有が商談の決め手になる。

 

 

10. 改善しながらのPDCAを回し続ける

 

P(計画)D(実行)C(検証)A(対応)サイクルという言葉がある。

Pはplanの略で、重点課題を決めて、その解決策を立案し、展開計画をたてること。

Dはdoの略で、立てた計画を実行すること。

Cはcheckの略で、実行した計画の実績を定量・定性で検証し、理由を明確にするみと

Aはactionの略で、検証結果を踏まえて対応策をとり行動すること。

ウイリアムズ・エドワード・デミングが提示した。

わたしは、P(計画)とA(対応)を合体してP(計画)D(実行)C(検証)サイクルとも言っている。

 

ビジネス行動とはすなわちP(計画)D(実行)C(検証)A(対応)サイクルのことだ。。

よくビジネスはP(計画)の部分だけを評価したりするが、

P(計画)だけで、まさに「体験」のステップであるD(実行)C(検証)A(対応)のないビジネスなんてありえない。

 

だから、人、組織を変えようとしたら、研修だけで済むはずがない。

実際に、いま、自分が担当している対象にむかって、P(計画)D(実行)C(検証)A(対応)の「体験」をしなくてはならない。

最低、戦略の最短単位である年度は、できれば改善も行える中期3か年は。

 

重要なのはD(実行)C(検証)A(対応)なのに、その前段のP(計画)がとくに取り上げられる理由は、

その方法論を学者がたくさん開発しているからだ。たとえばこんな具合。

商品の計画であれば、PEST(政治・経済・社会・技術)と3C(カスタマー・カンパニー・コンペチター)をチェックし、STP(市場をセグメンターションしてターゲッテイングしてポジショニングをする)を決め、4P(プロダクトを具体化し、プライシングをして、プレイス=接点・物流を選択し、プロモーションをする)を計画し、PLC(導入期・成長期・成熟期・衰退期のプロダクトタイクル)を設計する。

営業の計画であれば、PESTととくに消費者接点の課題把握に重点を置いた3Cのチェックをして、S(強み)W(弱み)O(機会)T(脅威)分析も足して、重点課題と定量定性目標を定め、プロモーションと営業活動に重点をおいた4Pを計画し、展開スケジュールを立てる。

 

計画よりも、出会う事実に「なぜ」「なぜ」「なぜ」を繰り返し、改善しながらの展開にこだわらなければならない。

P(計画)は研修込みで節目に1回やればいい。あとはすべてD(実行)C(検証)A(対応)にみんなで共有しながら費やす。

 

 

11. 「革新」ではなく「改善」

 

戦略とは「変化への最適結合」。その要件は5つ。

第一に「長期」。10年、5年、3年。そのうえで次期何をするか。

第二に「集中」。絞り込んだチャンスに集中する。

第三に「革新」。分けたすべての機能、体制を、一新させてのぞむ。

第四に「統合」。分けた役割(機能)を連結させる。

第五に「執念」。あきらめない。PDCAを繰り返し続ける。

 

師匠の水口健次に倣い、わたしもそう言わせてもらってきた。しかし、一部間違っていた。

「革新」(イノベーション)はない。「改善」が正しい。最初にこの言葉を使ったトヨタは「カイゼン」と言った。

 

シュンペーターや、ドラッカーが、経営の目的として「革新」=イノベーションを宣した。そう憶えている。

組織を生き残らせるためには、環境の変化を見極めて、既存の事業を新しい事業に切り替えていかなくてはならない。

それこそ経営者の最大の務めであると。

 

日本で、37年、人を変えるお手伝いさせてもらってきたが、スキルも体制も一変させてしまう「革新」を一度もみたことがない。

 

日本は、海に囲まれた島国で、地続きの脅威にさらされてきた大陸の国々と違い、組織を0から作り直す必要はなかった。

天然の要害に守られながら、自らを「調和」「平和」の「和(倭)」とか「大和」とか名乗り、大陸からもそう呼ばれてきた。

対立の元となる一神教は馴染まず、八百万の自然の神が根付いた。

さらに、そこに「和」を第一原則とする儒教が入ってきて、武士道などの日本固有の思想として根付いた。

「和」は日本人のDNAだ。

イローン・マスクのように9割の人間を解雇して新しい会社に作り変えることなんか絶対にできない。

 

日本は、こだわる。凝る。突飛なことはせず、より高い品質、より利便に、適切な価格で、と。よりよいものへと「改善」し続けることが、得意だ。それが世界が真似できない強みになっている。

とくに日本のくらしに密着して改善され続けてきた日用品、食、接客サービスなどは世界で飛び抜けた存在になっている。

大陸からやってきた「イノベーション」に染まって、この唯一無二の強み「改善」を捨てるのは愚の骨頂だ。

 

 

12. マーケティングマインド、応用、体験者体制で新事業創造

 

ネットで、日本がダメになった理由を検索してみるといい。学者さんたちが、たくさん解説してくれている。

なかでも多いのは、「イノベーション(革新)ができなかったから」「モノからコトへの移行ができなかったから」。

でも、「和」を最重視し、ゆえに「保守」が遺伝子となり、こつこつと改善を積み重ねていく日本なのだから仕方ないのでは?

 

とは言っても、「モノ」の「改善」ばかりやっていると、「モノ」というより「コト」の事業で「革新」を進める大陸系の組織に負ける。

なので、モノの「改善」を大事にしながら、同時に、コトに目を向けた「新事業創造」を進める必要はある。

 

素人なりに、「和」最優先の日本の組織の「新事業創造」はこんなことが要件になるのではと思う。

 

第一に、マーケティング・マインド。最優先の「全コストの負担者:消費者」の事実を起点に、市場をよくみて、チャンス=重点課題を設定し、施策にとりかかる。このことは、「改善」でも「新事業」でも、時代が変わろうとも同じだ。

 

第二に、応用。オリジナルを真似てそれを応用し改善する。新しい価値を生み出すのが苦手なのだから、大陸や、異業種や、競合他社のオリジナルを模倣する。あとは得意の改善を何度も繰り返して応用をきわめて似て非なるものにしていく。近年、アメリカと中国の AI開発競争が話題だが、アメリカが革新のオリジナル技術を追求しているにたい、中国は既存技術の応用することで低コストで速い開発を実現している。日本も中国の道をゆけばいい。

 

第三に、体験者体制。作ろうとしている事業の分野を既に体験し理解している人たちに任せる。その新事業領域で経験を積んだ人、人脈をもっている人や、その領域の価値を日常的に利用している人を、新たに雇用して、もしくは身内から抜擢して、最初から、その体験者体制で進めていく。既存事業を体験してきた者が新事業開発に取り組んでも無理がある。

 

たとえばZ世代。

1990年代から2010年ごろに生まれた人たちで、ネットの普及とともに人生を歩んできた。

なので「デジタルネイティブ」とも呼ばれる。

スマートフォン、インターネット、ソーシャルメディアに浸った生活をしている。

それまでの世代とはITとの親和性がまったく違う。

これからの新事業の多くは、彼らに任せた方がいい。

 

 

13.分けた役割をつなげる

 

たくさんの組織の人たちと話してきた。外から参加する素人のわたしには鈍いせいか半分しか理解できないときもあった。

 

アダム・スミスが「分業」を発明してから、すべての組織が役割分担によって規模を大きくしてきた。

組織は、規模が大きくなるほど、役割が増える。役割の違いは価値観の違いをつくる。

役割は言語をつくる。略語、カタカナ…。役割が増えるほど言語が増え、それが価値観の違いを助長する。

そもそも日本人は言葉をたくさん使う。「その国の言葉の90%以上を理解しようとする場合、フランス語なら約2000語、英語なら3000語、ドイツ語なら約5000語、日本語なら10000語が必要」とも言われている。

そのうえで、組織ごと、役割ごとに言葉ができてくる。

日本の組織人は、世界一たくさんの言語で彩られた役割分担のなかで生きている。

 

37年前。マーケティングの最初の仕事で、わたしはこの役割分担の惨状を目の当たりにした。

「営業が売らなかったから」。あるクルマが売れなかった調査報告だ。

自社で開発したクルマを、多くの販社が、この地域市場には向かないからと言って、顧客に勧めなかった。

大きい組織になると、こういうことが平気で起きてしまう。

 

組織は共通して次のような役割=機能に分かれている。

研究開発、生産調達、商品政策、リサーチ、コミュニケーション、チャネル政策、営業、ロジスティクス、人事労務、経営管理。

この下にまだたくさんの役割分担がある。

大きな商品にしようとしたら、共通の目標、使命感のもと、これらの機能がすべて連結されて、準備段階から意思統一され、中長期的なP(計画)D(実行)C(検証)A(対応)サイクルがまわりつづけなくてはならない。

「機能連結」という。マイケル・E・ポーターは「バリューチェーン」と呼び。世界中のビジネス標語になった。

そもそも「変化への最適結合」である「戦略」とは、分けた機能を同じ方向につなぐことである。

 

37年間仕事をしてきて、目にした失敗の理由の多くがこの「機能連結の不備」だった。

組織を大きくしてきた役割分担の進展が、組織の伸びを止めていた。衰退へと向かわせていた。

すべての機能の担当者は、機能の間に橋を渡すことを意識しなくてはならない。

たとえば営業は、生産、コミュニケーション、物流の作業を体験してもらう営業を進めるべきだろう。

 

 

14. 自分たちは何者か、顧客の笑顔、やらまいか

 

ではどうすれば機能連結できるのか。

 

多くの施策で機能連結の強いリーダーシップがはたらけばいいのだがそれは無理だ。

要るのは、〝水物〟の強いリーダー(トップダウン)ではない。

要るのは、安定した、この理念・会社のためにみんなでがんばろう、と思わせる空気(ボトムアップ)だ。

 

日本の組織は、たとえば終身雇用などのしくみできて、もともと「みんなでがんばろう」の空気づくりが得意だった。

それが、働き手の減少、産業の省力化を背景に、即戦力の補充、働き方の多様化が進む手段として、欧米風の「雇用の流動化」が必要視され、進み、転職、経験不足社員の常態化の状況を生んでいる。

「みんなでがんばろう」が難しい世の中になってしまった。

 

異業種の複数の若手社員たちに、何がモチベーションを高めるか、を聞いた。6つに整理できた。

1.顧客の笑顔。顧客(お客さま、お客さま接点)の笑顔、支持を実感するとき

2.自分たちは何者か、アイデンティティ、ブランドの存在

3.納得いく客観的な評価

4.基本的な考え方、ロジック、スキルが身につく教育制度

5.魅力的な福利厚生

6.報酬

 

聞くまでもなかったかもしれない。むかしから、古今東西、老若男女、不変の「やりがい」、それは「顧客の笑顔」の体験。

町中華のおやじ、工務店の職人、NOと言われ続ける営業、カスハラに心折れる日もある受付...みんなそれで救われる。

それから「自分たちは何者か」を言えること。大ブランドでなくてもいい。顧客、社会、自分に自信をもって言えることも、いつの世も変わらぬ「やりがい」なのだ。この2つの「やりがい」が「この理念・会社のためにみんなでがんばろう」空気をつくる。

 

「やらまいか」。静岡県西部から愛知県東部に根付く「この理念・会社のためにみんなでがんばろう」気質の方言だ。

世界一長い平和な時代をつくった徳川幕府、凋落日本にあってまだずっと世界トップ企業でありつづけているトヨタ、ホンダ、スズキ、ヤマハ。みなこの地域から生まれている。

 

 

15. 「外圧」に触れ続ける

 

日本は、地政学的な立地上、「革新」をする必要がない歴史を歩んできて、それが日本人の遺伝子となったのだが、

正確には、19世紀半ばに明治維新、20世紀半ばに敗戦、という「革新」を2度体験した。

前者は、サムライ統治体制の終わりであり、後者は、アメリカ占領体制への移行である。

日本は、自律的な「革新」はできないが、「外圧」によってのみ「革新」されるということだ。

 

先に触れたが、わたしは、たくさんの組織の人たちと話してきたが、鈍いせいか半分しか理解できないときもあった。

それぞれの組織は、それぞれの「業界」に生き、それぞれの常識、価値観、文化をもち、言語を話している。

ずっと外にいて、「内部にいる外部」として仕事をしてきたわたしはそう実感している。

 

「改善」はできても「革新」はできない日本の組織には、「外圧」のしくみが必要だ。

でないと、大きく前に進むことは困難だ。

 

基本的に、常に、異業種の組織人たちと話せるしくみをつくっておく必要がある。

知見が似ている「業界」人である同業他社ばかりで情報交換しているのではダメだ。

わたしは縁あってそういう場も見学させてもらっている。

そこでは、酒類、飲料、菓子、生鮮食品、加工食品、紙製品、電気製品、物流、ITサポート、コンサルティングなどの組織の20代~60代の人たちが、テーマを決めて、3カ月に1度のペースで、集まり、グループディスカッションしている。

幹事、進行もすべて参加する組織の面々だ。

みなさん、新鮮な情報を得て、帰っていく。

そういう場に参加し続ける、もしくは主宰していく、が重要ということだ。

できれば、生産、商品、コミュニケーション、営業、物流、人事・総務などの各機能で、

定期的に異業種情報交流会を運営していくべきだろう。

 

 

こんな者にしては、身の丈以上に生きられた。

感謝を表し、ここに仕事の最後の振り返りを終わる。