眠れない

深くて昏い海の底のようなベッドに泥のように横たわり

死んでもいいかもなんて思いながら

時計の音だけを聞いている

 

胸の奥に棲んでいる黒い塊たちが

今夜も疼きはじめる

ブリキのようなとげとげで

鈍い痛みが時折わたしを苦しめる

 

傷つけられたこと

傷つけたこと

 

届かなかった想い

受け止めなかった想い

 

裏切られたこと

裏切ったこと

 

弔うことが出来なかった

想いたちの黒い塊

 

眠りに落ちて

どれくらい経ったろう

わたしの身体は揺れていた

ゆらり ゆらゆらり

わたしは小さな船に横たわり

見たこともないような綺麗な湖の水面で

ゆっくりと揺れていた

月と星たちに照らされて

ゆらり ゆらり

 

水面の波たちがハープの音色に包まれて

銀色の蝶々のようにキラキラと踊りはじめる

 

時計の音は聞こえない

 

右手に何かある

手のひらを開いてみる

そこにはあの黒い塊たち

とげとげの塊たち

 

悲しくなった

この綺麗な場所に似合わない黒い色

とても悲しくなった

 

涙が溢れてきた

ポトリ ポトリ

ポトリ ポトリと

塊たちにこぼれ落ちる

 

ごめんね

ごめんね

ごめんね

 

ごめんね

ごめんね

ごめんね

 

溢れる涙が止まらない

流す涙もなくなって

瞳を閉じた

 

どれくらい経ったろう

 

体の異変を感じて顔を胸を足をさわる

 

幼かった頃のわたしに還ってる

 

そばには若かったころの父さん母さんの笑顔

まわりの景色はおだやかな光に包まれてる

 

手のひらにあった黒い塊たちが

みずいろ レモン色 ルビー色…

やさしい綺麗な色に変わってる

 

頬をなでる風が気持ちいい

 

静かでおだやかな時間が星と月に照らされ

銀色の蝶々たちがゆったりと踊ってる

 

キラキラ光る水面に

宝石のようになった塊りたちを

ゆっくりと ゆっくり とき放した

 

一度 二度 挨拶をするようにくるくる踊って

やがて湖に還っていった

 

カーテン越しのやさしい陽射しに包まれて

目が覚めた

わたしはわたしを強く抱きしめて

自分にありがとうと言った

 

窓を開ける

厚いパラフィンに覆われていた町や川や空が

世界のすべてが透明に輝いてる

 

 

思い出した 今日はわたしの誕生日

 

深呼吸をして

 

もう一度大きく伸びをした