示談書が完成する前、
私は女性刑事の吉本さんに会いに行って話を聞いてもらった。
私「こんな示談の方法があるなんて知らなかったんです!」
吉本さん「私も!橘さんに聞いてびっくりしたの!」
私「私の中で『示談=被害届を取り下げて、加害者が刑務所に入るのを免れる』という意味だと思っていたので。」
吉本さん「多分刑事のみんなもそう思ってるよ!」
という会話をし、示談書の内容を話したところ、吉本さんは
「忘れないうちにこの示談書の内容、上の人に話してきていい!?」
と少し興奮気味で数分間、取調室を出ていった。
吉本さん「上の人も、『こういう内容だと、ただの【契約書】みたいだね』って言ってた!」
私「多分、私と同じように示談の意味を違う風に捉えている人もいると思いますし、
実際、刑事裁判をした後、民事裁判をしなければ慰謝料を取れないと思ってました。
何より『赦さないけど示談にする』という方法はもっと認知されてもいいと思うんですよね。
『民事裁判が嫌だから被害届も出さない』と言って泣き寝入りする人もいるかもしれませんし。」
吉本さん「そうだよね~!この示談の方法は被害者にとっていいと思うよ!」
私は吉本さんの言う「上の人」がどうしても気になってしまい、
「もしかして日村さん、異動になったんですか?」
と訊くと、
吉本さん「実はそうなんだよね。この前電話で話したんだけど、橘さんのこと気にしてたよ。」
最後に日村さんに父のことで話を聞いてもらった数ヵ月後、
いつも自宅から警察署まで送迎してもらっていた、赤いランプのついた普通自動車が、今にも止まりそうな速度で私の自宅の前を通っていった。
その時一緒にいた妹は、
「パトロールしてくれてるんだよ。」
と言っていたが、
その時私は何となく、日村さんが乗っている気がしたのと、
「もう会えないかもしれない………」
と思っていたのを思い出した。
異動前の最後の挨拶に来てくれたんだと思うと、本当に泣けた。
私は吉本さんに
「日村さんには大変お世話になったので………ちゃんとご挨拶できなくて申し訳ないです………。」
と泣くのを必死に我慢して言った。
日村さんは最後までヒーローだった。
*私の示談の方法は、事件当時(数年前)の話なので、今は違った方法があるかもしれません。