ずいぶんとこのブログを放置してしまったが、これは書かずにはいられない悲報だった。
まさに神の声と呼ぶしかなかった、ソプラノ界の至宝であるジェシー・ノーマンが亡くなってしまった。
圧倒的な声量をもちながらも柔らかく深みのある声。すべてを包み込んでしまうゴッドマザーのような包容力は唯一無二の存在だった。
訃報に接して、最後に聴いたのは何時だったかとコンサート通いの記録を調べたら、2004年6月1日のモノオペラ公演(東京文化会館)だった。完璧なステージが出来るという確信が得られるまではやらないという彼女らしく、何度か開催が予告されながら延期が続いた後、遂に実現したモノオペラ公演だった。
それまでにも何度も実演に接していたが、それでもあれは強烈な体験だった。終演後、一緒に行った知人と二人、何も言葉を発せず、ただただ無言で上野の街を歩いていた。傍からはまるで夢遊病患者のように見えたかも知れない。。
それ以前のリサイタル公演にも思い出がたくさんある。オーチャードホールでの公演は、初日にホールの音響に不満があったようで、二日目にはドームのような反射板が設置されていた。それでもどことなく不満げな様子も垣間見えたが聴衆は熱狂。最後は総立ちになった熱い拍手に応えて弾き振りで歌った「アメイジンググレース」の崇高さは、今でも記憶に焼き付いており、一生モノの体験だった。
残念ながら近年は引退状態だったようだが、あの巨体ゆえ健康管理も難しかったのだと思う。
享年74歳、心よりご冥福をお祈りいたします。素晴らしい感動をありがとうございました。