なにかが変わった陽子さん | ひなたぼっこ主義

なにかが変わった陽子さん

書く理由がなくてずっと書かなかったけど、いつか書きたいと思っていたことなので

今書くことにします。

中学生の頃の話です。



中学2年から3年に進級し、はじめて学校に行った日。

新しいクラス分けについて書かれた紙が、廊下に貼り出されていました。


それを見ていたとき、

クラブは同じだけどクラスは違う友人が、1人の女の子を連れてきて、私にこう言いました。

「この子、陽子ちゃん(仮名)。去年、私と同じクラスだったんだ。

 今年、あかしあさんと同じクラスになるんだけど、友達になってくれない?」

わざわざ不思議なことを頼んでくるもんだ、と思いつつも、断る理由もないのでOKしました。


そのあとで分かったのですが、

陽子さんは、とにかく無口な人でした。

いつもうつむいていて、ほとんど何もしゃべらなくて。

授業中に先生にあてられた時だけ、すごくすごく小さい声で答えているものの

その声はあまりにも小さすぎて、先生以外の人にはほとんど聞こえないんです。


彼女の視線はいつも下向きで、笑顔というものはまったくなく、

髪型も、長い前髪が顔の大半を隠し、いかにも顔を見られないようにしているという感じでした。

それでも、声をかければ黙ってうなずくし、誘えばすぐについてきました。

愛想はまるでないけれど、そういう人だと分かっていれば、別に気にはならないもんです。


なので、毎朝必ず私から陽子さんにおはよーと言い、

休み時間や教室移動のときにも彼女を必ず誘うようにしていました。

他のクラスメートは、自分らから彼女を誘ったり話しかけたりすることは滅多にないものの、

私が彼女を誘って連れてきても、べつに構わない様子です。

陽子さんは、あいかわらず無口で表情も乏しいけれど、誘われることはまんざらでもない様子です。



そして、9月か10月かくらいの、とある朝。


私がいつものように教室に入ると

「おはよー!」

という聞きなれない声がしました。

えっ、いったい誰???


声の主は、陽子さんでした。

こっちをまっすぐ見て、自分から大きな声でおはよー、と言ったようです。

しかも、笑顔で。

私はかなり面食らいつつも、慌てておはようと返事しました。

彼女の声、初めてまともに聴いた気がしました。


そのあまりの変わりように、

もしかすると双子の姉妹とかの別人じゃないか?!と本気で疑ってしまいました。

でも、それはありえなさそうです。

笑顔とはいっても、顔がひきつったみたいな、正直ヘタクソな笑顔。

もう、ずっとまともに笑ったことがない、それを表しているかのような。

間違いなく陽子さん本人です。


人がまるで変わるのは、それまでにも何度か見てはいたけど

陽子さんほど短時間(夕方4時~次の日の朝8時)でハッキリ変化したのを見たのは初めてです。

彼女にいったい何があったんだろう???

あるいは、彼女の中で、どんな変化が起こったんだろう???


もしかすると、家で何か特別にいいことがあったからかもしれない。

しかし、それよりは

他人から拒絶されず受け入れられる、という経験を長くし続けたことで

「自分は、他人から受け入れられるに足る人間だ」

というふうに、心の中のスイッチが切り替わった、という可能性のほうが高い気がします。

まあ、どちらでもいいんすけどね。


面白いことに、

彼女は、自分自身の変化に、自分ではまったく気付いていないようでした。

まるで、これまでもそうしてきたかのように

私に話しかけ、他のクラスメートにも話しかけ、自分から積極的に行動していました。


陽子さんが私を必要とはしなくなったことが、嬉しいような、ちょっと寂しいような。

でもやっぱり嬉しいし、ほっとしました。


その後、中学を卒業するまで、彼女はずっと「明るく元気な陽子さん」でした。

高校は違っていたので、その後のことはわかりません。


そして。


大学1年か2年の頃、私がいつものように名古屋駅で電車に乗ったとき、

偶然、目の前の席に座ったのが、なんと陽子さんでした。

これまでにも近くをすれ違っていたのかもしれないけど、まるで気付きませんでした。


陽子さんは、とある専門学校に通っている、と言っていました。

「明るく元気な陽子さん」のままで、笑顔は以前よりも自然になっていました。