塊はパトカーが照らし出すヘッドライトの軌跡を
注意深く見ていた。

いきなり地獄に放り出されたその場所が、あの暗闇と静寂、
更に言えば、塊が創り出した異次元の空間にあって、
全く分からなかったのだ。

付け加えるのであれば、パトカーのスピードと塊の足が
刻んだその足跡の差異がどの位のものなのかも分からなかった。

だから塊の目は、パトカーのヘッドライトが照らし出す、
砂利道の変化を、注視していた。

パトカーは唯でさえ細く、ガードレールも無い山道を
ゆっくりと走っていた。

塊がその砂利道に確かな変化を認めたのは、塊が思っていた所よりも
遥に離れた山道のカーブの入り口だった。

砂利道にはバスが進むべきラインを踏み外した痕跡が
くっきりと残っていた。

それは山が作り出した自然の軌跡と、完全に異なっていた。
運転手が急いで強くブレーキを踏んだであろう痕跡まで
容易に想像できる程、生々しくくっきりと刻まれていた。

私達は車を降りる。
そして警官が持つ大型の懐中電灯で崖の下を照らしてみたけれど、
その光は崖の中腹あたりで彷徨っていた。
車の位置を変えて、何とかヘッドライトで照らし出せないかと
何度も試みたものの、結果は同じだった。

転落箇所を特定するのは、予想以上に難しかった。
警官は次第に面倒臭そうに首をすくめ、
『夜明けを待つしかないな』と言った。

『夜明け?』
あの弱々しいうめき声が、夜明けを迎えれるのであろうか?
答えは完全に『No』である。

塊は警官にレスキュー隊の要請を切り出した。
当然である。
このまま二人で探しても、そして仮に探し出せたとしても
私達に一体何が出来るのであろうか?

いずれにしてもレスキュー隊が必要である。
私はポーカー程の少ない中国語のボキャブラリーと、
筆談と、必死の身振り手振りで、警官にそれを伝えた。

しかし警官は、それを分からなかったのか、分かっていても
面倒だったからなのか、中々レスキュー隊の要請に応じない。

次第に警官は苛立ちを表し始め、遂に地面に座って
タバコを吸い始め、塊にも一本薦めてきた。

塊の間に合わせの感情ですらそれには激高し、
タバコを差し出した警官の手を思いっ切りはじくと、
その手をねじるように強く掴んで、
はっきりとした日本語でレスキュー隊の要請をした。

終始冷静を装ってきた塊のその反応に驚いて、警官はパトカーに
向かうと、無線らしい黒いプラスチックに向かって
何かを話し続けた。


レスキュー隊が到着したのは、暗闇の濃度が減衰してきた
ある夜の終わり近くである。

続く。