バス停に着くと目的のバスを探す。
ラオスとの国境の町、西双版納行きのバス。

目的のバスにはまだ乗客がほとんど乗っていなくて
走り出す気配は一切無い。

中国の長距離バスは、乗客が8割近く埋まらないと走らない。
時刻表こそあれど、そんなのは一切機能していない。
更に言えば、発車時刻を大幅に過ぎて乗客の乗っていないバスは、
運転手に直接交渉すると、半額、上手くいけば7~8割安の
運賃で乗る事が出来る。
つまり、運転手は一円でも多く稼ぎたいのであり、乗客の少ない、
すなわちお金にならないバスを走らせる気なんて無いのだ。

私はそれを確認すると良く行っていたラーメン屋さんに向かう。
48時間近い乗車時間だから何も食べずに乗るとしんどいのは、
上海から乗った56時間の長距離列車から学んでいた。

知っている方も多いと思うが、日本のラーメンと
中国のラーメンは大きく異なる。
日本のラーメンは独自の進化を遂げているのであり、
もはや中国の歴史や影は完全に姿を消している。

中国のラーメンは麺もコシが無く、本場だと期待して食べると、
肩透かしを食らう。
それでもそこのラーメン屋は独特の味で気に入っていた。

ラーメンを食べて再びバス停に向かうと、席は半分近く埋まっていた。
そろそろ潮時だなと思い、運転手に交渉してみる。
何度言っても2割までと、強気である。
このバスは唯一西双版納まで直接行くバスなので結構人気があり、
恐らくそこまで負けなくても乗客が乗るであろうと思っているのだ。

もう少し待とうとバス停のベンチに座っていると、同じ歳位の
中国人が親しげに話し掛けてきた。

中国語は例のバーのオーナーから英語で教えてもらっていたので、
必要最低限の会話は出来たので、話をしていると、
どうやら例のバーの近くの中華料理屋に働いていたらしいのだ。
それで演奏をしていた私を知っていたのだ。

これから休みをもらって実家に帰るので一緒に来ないか?と誘ってくる。
ビザの期限もギリギリなので、やんわりと断っていると、
しつこく誘ってくる。
本当にしつこい。
30分位食い下がってくるのだ。

このままではらちがあかないので、はっきりとこう伝えた。
『あなたが私を知っていても、私はあなたを知らない。更に言えば
私があなたの実家に行く事に何の意味があるのだろうか?
私は旅をしている。申し訳無いけれど私の旅の予定にあなたの実家はない』

これでようやく分かってくれるだろうと思ったが、まだ彼は諦めない。
私は本当に困ってしまい、2割安の西双版納行きのバスに乗った。
運転手の笑顔がいらつく。
空いてる席を見つけ荷物を置いて外を見ると、まだ彼は諦めておらず
何か大きな声で私に叫んでいる。
いよいよ気持ちが悪くなってくる。

そのバスは寝台バスなので、ベッドに寝転んで彼のアプローチを
完全にシャットダウンした。

間も無く席は乗客で埋まって、大きなクラクションを鳴らすと、
沈む太陽を背にしてバスは走り始めた。

やがて夜がやってきて、外の風景を完全に消し去ってしまうと、
私は小さな鞄の中からCDウォークマンを取り出して、CDを入れ替えると
Bjorkの優しい歌声と共に夢の世界へおちていった。



私はその列車に乗り込んだのだ。
列車は私が乗車したのを確認すると、いびつな笑みを浮かべながら遂に走り始めた。あとはそのポイントまで淡々と向かっていくだけだ。

続く。