何の答えもなく10代を終えたその年、私は中国にいた。
中国を選んだ理由は特に無い。
ただそこがユーラシア大陸に一番近い国であっただけだ。
更に言えば、大陸の端に位置するその国が、
旅の始まりとしては悪くないという程度のものだった。
とにかくその年、私は中国にいた。
大阪の港から2泊3日の船旅の末、上海の港に足を踏み入れても
正直のところ何の実感も湧かなかった。
魂が抜け、体だけがそこにあるような、そんな感じだった。
取り敢えずテキトーに町を歩いて、テキトーな店で
テキトーにご飯を食べ、そこそこお酒を飲み、
ボロボロの宿の硬いベットに体を沈めると、
底の知れない井戸に潜るように深い眠りに落ちた。
翌朝、見覚えの無い天井を見上げながら、外から聞こえる
威勢の良い中国語を耳にしている内に、ようやく中国に
いるんだという実感が湧いてきた。
今更ながら、空気の匂いが違う事に気付く。
何と言うか、それは正に中国の匂いなのだ。
チャンダンの香りがまだ見ぬインドの歴史を語るように、
その匂いは今いるその場所を決定付けるには十分だった。
しばらくそのままでいると、恐ろしくお腹が空いている事に気付く。
宿を出てめぼしい店を見つけると、身振り手振りで料理を注文する。
料理が来るまでに、良く自分はこんな無防備さでもって
税関を通り、宿のチェックインが出来たなと思った。
そんな事を考えていると料理がやってきて、
貪る様にそれらを綺麗に平らげた。
それまで食べてきたどんな中華料理よりそれは美味しかった。
お腹が空いてた事、中国で食べているんだという思い込み、
色々あるだろうけど、それは本当に美味しかった。
それから3日間上海にいた。
しかしなるべく早くここを出なくてはいけない。
実は、この旅の目的はユーラシア大陸の端、スペインまでの
各国の民俗音楽の研究にあったのだ。
物価の高い(と言っても日本に比べれば遥に安いけれど)所に
長くいてはならない。
私のこの旅の誤算というか、若気の至りというか、つまるところ
愚かな事は、たったの20万円を手にこの旅を始めてしまった事だ。
だから私は少しでも物価が安く、且つ少数民族の文化が残る村を
目指すべく、これまた大移動の56時間ノンストップの長距離列車に
乗る事に決めた。
乗車券を買う為に、上海駅に行って外国人専用窓口に行くと、
完全な変人扱いをされた。
つまりはこういう事だ。
座席には4段階のクラスがある。
一番上が柔らかいベットの席。
2番目が硬いベットの席。
3番目が柔らかい椅子。
一番下が硬い椅子。
私は躊躇無く、一番安い硬い椅子を選んだ。
一番高い席と7倍近い値段の差があるのだ。
20万円片手に、のこのことやってきたアホには当然の選択だ。
しかし受付の女の子は何度も確認をしてきた。
『本当にそれで良いのか?』と。
全く変わらない私の答えに諦めてか、上司らしい男性がやってきた。
この男は実に簡潔な質問をし、十分な回答を得ると、
静かに乗車券を発行した。
別れ際に『十分注意するんだ、いいね?』と言うと
やはり静かに窓口の奥の部屋に姿を消した。
何とも後味の悪い忠告である。
私は乗車券を受け取ると、発車時刻まで上海の町を歩き回った。
乗車時刻の少し前に上海駅に着いて、目的の列車に乗り込み
私の席に辿り着いた時、受付の彼等が言ってた事をようやく理解する。
続く…。
中国を選んだ理由は特に無い。
ただそこがユーラシア大陸に一番近い国であっただけだ。
更に言えば、大陸の端に位置するその国が、
旅の始まりとしては悪くないという程度のものだった。
とにかくその年、私は中国にいた。
大阪の港から2泊3日の船旅の末、上海の港に足を踏み入れても
正直のところ何の実感も湧かなかった。
魂が抜け、体だけがそこにあるような、そんな感じだった。
取り敢えずテキトーに町を歩いて、テキトーな店で
テキトーにご飯を食べ、そこそこお酒を飲み、
ボロボロの宿の硬いベットに体を沈めると、
底の知れない井戸に潜るように深い眠りに落ちた。
翌朝、見覚えの無い天井を見上げながら、外から聞こえる
威勢の良い中国語を耳にしている内に、ようやく中国に
いるんだという実感が湧いてきた。
今更ながら、空気の匂いが違う事に気付く。
何と言うか、それは正に中国の匂いなのだ。
チャンダンの香りがまだ見ぬインドの歴史を語るように、
その匂いは今いるその場所を決定付けるには十分だった。
しばらくそのままでいると、恐ろしくお腹が空いている事に気付く。
宿を出てめぼしい店を見つけると、身振り手振りで料理を注文する。
料理が来るまでに、良く自分はこんな無防備さでもって
税関を通り、宿のチェックインが出来たなと思った。
そんな事を考えていると料理がやってきて、
貪る様にそれらを綺麗に平らげた。
それまで食べてきたどんな中華料理よりそれは美味しかった。
お腹が空いてた事、中国で食べているんだという思い込み、
色々あるだろうけど、それは本当に美味しかった。
それから3日間上海にいた。
しかしなるべく早くここを出なくてはいけない。
実は、この旅の目的はユーラシア大陸の端、スペインまでの
各国の民俗音楽の研究にあったのだ。
物価の高い(と言っても日本に比べれば遥に安いけれど)所に
長くいてはならない。
私のこの旅の誤算というか、若気の至りというか、つまるところ
愚かな事は、たったの20万円を手にこの旅を始めてしまった事だ。
だから私は少しでも物価が安く、且つ少数民族の文化が残る村を
目指すべく、これまた大移動の56時間ノンストップの長距離列車に
乗る事に決めた。
乗車券を買う為に、上海駅に行って外国人専用窓口に行くと、
完全な変人扱いをされた。
つまりはこういう事だ。
座席には4段階のクラスがある。
一番上が柔らかいベットの席。
2番目が硬いベットの席。
3番目が柔らかい椅子。
一番下が硬い椅子。
私は躊躇無く、一番安い硬い椅子を選んだ。
一番高い席と7倍近い値段の差があるのだ。
20万円片手に、のこのことやってきたアホには当然の選択だ。
しかし受付の女の子は何度も確認をしてきた。
『本当にそれで良いのか?』と。
全く変わらない私の答えに諦めてか、上司らしい男性がやってきた。
この男は実に簡潔な質問をし、十分な回答を得ると、
静かに乗車券を発行した。
別れ際に『十分注意するんだ、いいね?』と言うと
やはり静かに窓口の奥の部屋に姿を消した。
何とも後味の悪い忠告である。
私は乗車券を受け取ると、発車時刻まで上海の町を歩き回った。
乗車時刻の少し前に上海駅に着いて、目的の列車に乗り込み
私の席に辿り着いた時、受付の彼等が言ってた事をようやく理解する。
続く…。