<二つの事業製品のシナジー効果を発揮>
たびと 比較的順調な事業と共倒れになることは幸い無かったのです。順調な側の事業も,営業提案部門が行う提案がすべて受注されるわけではなく,失注することも多かったのです。ただ,1件当たりの額が大きく,提案件数の3割も受注に結び付けば受注予算は十分達成ができたのです。それに,受注が取れたときの額が大きいと,アピール度も大きいので営業は頑張って新規の引き合いを取ってきていたのです。
短善 順調じゃない事業は,一つの受注が小さかったので,受注額が大きな目標の営業が売り込みに力が入らなかったのですね。
たびと その通りです。ところが,順調な事業では,ある程度の受注が取れれば予算達成に影響がないため,失注の分析はあまりせず,営業や技術の部門は他の引き合い対応にすぐ移っていたのです。それは非常に勿体ないと製品部門の私は感じました。
短善 失注した引き合い先に順調じゃない事業の売り込みをしたのですね?
たびと あたりです。それまでは,失注した引き合い先に,営業担当は「またよろしくお願いします」挨拶には行くのですが,未練がましいと思われたくないのか,あいさつ程度かせいぜい応接コーナーで済ますことが多かったのです。
短善 それで。
たびと 営業には,今後の参考にするため,会議室で失注の要因,何が足らなかったのか,ざっくばらんに聞かせてほしいと失注先にお願いするように依頼しました。
短善 落選させた企業に断られませんでしたか?
たびと 断られませんでした。なぜなら,受注額が大きいだけに,引き合いから受注/失注が判明するまで,半年以上,時としては2年近くかかることが珍しくないのです。
短善 その間,候補が絞り込まれるごとに何度もプレゼンテーションをするわけですね。
<調達先を決めるほうも大変?>
たびと 順調な事業のほうは有名企業の受注実績が多数あるので,最初のプレゼンで候補から漏れることはまずありません。候補が2~3件に絞り込まれてもまだ残ってしまうのがほとんどです。
短善 引き合い対応が重なり,たびとさんからの依頼で私も一部詳細機能のプレゼンに駆り出されたこともありましたね(笑)。
たびと 短善さんは,その順調な事業の一部機能ソフトウェアの仕事を長くお願いしていましたから,機能はすべてご存知だと思いました。さて,失注の断を出した企業の担当者も最後まで迷った末の決断だったり,自分D社の製品が良いと思っていたが,最後に天の声でひっくり返ったりすると,申し訳ない気持ちもあり,応じてくれたようです。
短善 そこで,もう一つの事業の売り込みをしたのですね。
たびと その時,順調ではないほうの事業の営業提案担当者も連れていくように営業部門に仕向けました。その結果,金額がそれほど大きくないので,1回のプレゼンで即決したり,客先の予算消化の関係で受注したり,その時ダメでも,翌年度に提案するとすんなり決まったりすることも多くなりました。
短善 客先も最後まで引き延ばしておいて,発注しなかった罪滅ぼしの気持ちもあったのでしょうね。
たびと 提案先担当者は絶対顔に出ませんが,少しは影響したかもしれません。その結果,ダメだった事業は,私が辞めた後も順調に受注を伸ばし,今や良かった事業を追い抜きつつある勢いだと聞いています。
短善 それは,たびとさんのお陰ですね?
<お荷物事業が稼ぎ頭になったが..>
たびと 早期にもっとよくできたかもしれません。事業部幹部やその上は,少し順調になったら,すぐ利益を刈り取ろうとします。少し高いが優秀な協力会社を態度が気に食わない,値下げをしないというだけで簡単に切りました。現場どれだけ対応に困って,ビジネスチャンスを逃したか,計り知れないくらいです。
短善 以前お会いした時にたびとさんがおっしゃっていた,「日本の大企業は株主の顔色ばかりみて,期間損益を重視しするあまり,将来の大きな利益をもたらすかもしれない種までも食べてしまっている」ということを思い出しました。
たびと そのようなその場主義の考えは,実は人の問題にも大きく波及しています。古い話をしますが,たとえばN君のことです。
短善 先ほど話した調達さんのNさんですね,
たびと これからの話,N君を事例としていますが,類似のことが多い一例として聞いてください。N君は仮名として聞いていただいたほうが良いかもしれません。
短善 承知しました。絶対他言はしませんし,企業組織の根本に流れる構造的な問題のひとつの事例としてお聞きします。
(5話につづく)