<たびとはPの参画を提案したが..>
たびと 基本,他の登録者はN君任せにしようと関わりたくなかったようですね。私は,何度もPさんも入れてNさんと一緒に仕事をする体制を親会社の管理者達に提案しました。
短善 でも,ダメだったのですね?
たびと その理由が,Pさんにそのような作業をやらせると,対象ソフトウェアの問題点ばかり言い出して,先に進まないことが今まで何度もあった。それが気に入らないので,真面目で愚直にやってくれそうな新人のN君だけに任せた。という理由。
短善 そういえば,私が10数年前にPさんと初めて打ち合わせで会って名刺交換しましたが,主任すらの役職はなく,その後定年扱いで退職するまでずっと平社員だったようですね。
たびと Pさんこそ,本当の意味で真面目だったのです。課題を早期に洗出し,それを解決するための体制を早期に作れば,問題は小さいうちに解決でき,後でその重大さ分かって,バタバタと後手に回るよりもはるかに少ない解決工数で済むという考えの持ち主です。
短善 技術的苦労の経験が少なく,順調に昇進していった人は,Pさんの課題指摘に狙いも対処方法も分からず,「最初からネガティブなことばかり言うなよ」とPさんのような人をメンバーに入れたくない,というようなことがよくあると私も思います。
たびと Pさんは,元々この海外商用ソフトウェアを理解して,日本語版のアプリケーションを開発しやすくするプロジェクトに反対をしていました。
短善 出来合いモノを使えば,安く済むはずだという素人考えに,猛反発をしたのですね。その結果,何も知らないNさんが担当させられる羽目になった?
たびと 私がいくら上司とPさんを説得しても,両者とも意地でもPさんが加わることを完全に拒否したままだったのです。
<まったく支援がないままのN>
短善 Nさんの部屋に行って,どんなことをお話したのですか?
たびと ほとんど不満の聞き役でしたね。N君も私が別会社だからか,あまり我慢せずに,今の辛い気持ちを言ってくれました。
短善 どんなことが,一番つらいとPさんは言っていましたか?
たびと このあたりからは,N君本人や御社の社員に対しても他言無ということでお願いします。
短善 もちろん,承知しています。今の調達部門と弱小下請け会社の関係では,無駄話もできる雰囲気ではないですから。
たびと N君にとっては,分からないことを聞ける人がいないということが一番つらいことだったようですね.
短善 そりゃそうでしょうね。私だって,そんな状態に押し込まれたら,心が折れると思いますね。
たびと 短善さんが心が折れる? そう簡単に参る訳がないですね。短善さんだったら,きっと上司のところに行って,こんな仕事やってられませんと怒鳴り込むでしょうから。
短善 人を何だと思っているのですか?(笑)
<Nは体制構築の失敗の犠牲になる>
たびと N君は我慢をしすぎて,最終的にはにっちもさっちもいかなくなって,どんなに頑張っても大幅な納期遅延は避けられない状況となって上司のKさんに報告をしたのです。
短善 その時Kさんは,「なんで早く言わなかったのだ!」と烈火のごとく怒り,「どうするつもりなんだ!」とNさんを強く叱責したんですね。
たびと 何だ,短善さん,その件知っているじゃないですか?
短善 いえいえ,そのKさんのことを私は以前大変な仕事を請けてよく知っているので,想像で話しただけですよ(笑)。
たびと あんまり,事実の通りなので,知っているのかと思いましたよ(笑)。N君は「まだ努力が足らない」と思って「解りました・考えます」と回答してしまったそうです。
短善 真面目でまだ経験の浅い技術者ほど,できもしないことを抱え込んでしまうのですね。
たびと それは,本人の問題ではないと私は思います。従順な社員のみ周りに集め,自分の立てた安易な計画に指摘をする社員の話を聞かず,遠ざけようとする上司が問題なのです。
短善 Nさんは,その犠牲者ということなのですね。
たびと そういうことになりますね。結局,しばらくして完全にギブアップしたN君はこの件で「できない社員」というレッテルを貼られ,商用ソフトウェアの改造はほぼ頓挫し,私の担当するアプリ側の開発量はとんでもなく増えました。
(8話につづく)