満州旅情 ~中国東北に旧満鉄客車を求めて~ | 旅一郎のブログ

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国鉄(日本国有鉄道)が、最後の全盛期を迎えた昭和47年ー53年までをテーマにした、汽車旅のブログです。

旧型客車亡き後、日本の鉄道旅行は本当につまらなくなりました。そのため海外ネタも載せています。

当時の雰囲気を伝えるものは鉄道にかかわらずアップします

先程貼り付けた満鉄客車の乗車記です。

1993年3月の訪問時のもの。

 3月になっても満州はまだ真冬。沈阳(旧満州国奉天)から普通列車で小一時間、新台子の駅に降り立った。 目差す瀋陽鉱務局専用鉄道の駅は右手に線路沿いにあった。本線とは柵で仕切られており満州を感じさせる広い荒地の中に客車は停車していた。後ろから眺めたその車両はデッキ部分を除いて オハフ33型のようだった。色のないこの世界、まるで自分が満州の時代にタイムスリップしてしまったような気さえする。

 列車に近づくと全くひどい状態で窓はところどころ砕かれ、ホコリで(砂で?)汚れているため本来の緑色に黄色のラインカラーがほとんどみえず、逆光もあいまってまるでモノトーンの日本の客車にみえる。 9両ある客車の前の方では蒸気の呼吸が聞こえた。


「満鉄蒸気か?」と思って近づいてみると新鋭の上遊型(1988年製)だった。しかし蒸気であることにはかわりない。

 暖房もこわれている車内は当然寒い。白熱灯もこわれているようだ。ただ一番前の車両は近代化改造を受けていてイスも真新しい黄色に塗られてまぶしかった。旅情を感じるため、私はあえて2両目へ座ることにする。


 発車10分前に上遊1246号機が連結された。

16:38 中国蒸気特有のタイフォンが鳴りガタッと動き出した。左に大きくカーブし本線と離れる。

 荒れた大地が左右に広がり列車は加速するすぐに車内売系がやってきた。虎石台まで切符を買う。 0.9元(10円)だった。TR11と同じ型の台車のためよく揺れる。構内を出ると汽笛は「ボーっ」という音に変った。蒸気旅情を感じずにはいられない。


 16:50 前立屯着 赤レンガの建物がならび葉のない木が寒さを感じさせる。窓の外には家路を急ぐ人々が往来している。この列車も帰宅列車らしくまとまった客が乗り込んだ。

 駅構内の一角に機関区(あるいは留地線)があり、解放 101 が赤錆びて眠っていた。家々からも煙があがり、人は住んでいるのだがどこかもの悲しい、満州という土地がそうさせるのか? 列車は走り出した。

満州はこれで5度目、はじめてきた時から「俺は昔ここに住んでいたような気がする」と言っていた。満州のもつノスタルジアは決して鉄道ファンだけのものではないと思う。何年も前、こうやって毎日、蒸気の引く旧客に乗っていた。そんな気がしてならない。寒々しい平原に力強くも悲しい汽笛が響いた。


 17:04清水台に到着。ここで列車交換のためしばらく停車する。窓から交換列車を見る。「ボー」と汽笛が聞こえる。遠くから上遊の牽引客車 414 列車がやってきた。後ろから3両目にはダブルルーフのY520820が連結されていた。満州名物 真赤な夕日もすでに沈みうすい霧がたちこめてゆく。原っぱの中を列車はゆく、時折ボタ山が忽然と現れる。


 このもの悲しさはなんだろうか?よく考えてみると夕張のそれによく似ているような気がする。モノトーンでセピア色の街夕張とここ満州は同じ悲しさがある。それにこの客車、心をしめつけられるくらいのノスタルジーで本当に泣きそうだ。二井、三井と日本にゆかりのありそうな駅に止まり、乗客もふえてゆく。


 定刻では17:23者の浦河石には7分遅れの17:30に着いた。目立った動きはなく発車。駅を出るとすぐまたもとの平原にもとる、単調は単調なのだがなつかしさにひたってしまい、そんなことは気にならない。ガタガタよく汚れるが、ジョイントも日本の20M 客車と同じ音。全く自分が今何時何処にいるのかさえわからなくなってしまうほどである。今この瞬間渋谷あたりではやかましい音楽の中をハデハデコビコビの人々がたむろしているのだろうが、そんなことはとても信じられない。同じ鉄道を趣味とする人々でも今、日本でNEXやスーパーヴィウ踊り子などで楽しんでいる方が多いのだろうが、彼らはこんな素朴ない良さというものとは一生縁がないのだろうか。


 凄暗くなってた、景色の中を、そんな私の心とは関係ないようにた黙々と列車は走る。

 右手に本線が現た。新台子を出てから1時間強ぶりの再会である。本線上はあいかわらず大型蒸気の引く貨物やDLの引く長大客車列車が頻繁に往来する。中国というと今、まず出てくるのは中衛そして南岔、また古くは乌肖岭などどれにしてもパワーだけが、広大さだけが売りものの所である。私は今までそんな中国蒸気を見て、それがいいという人ばかりに会っていつも「何かちがうな」と思ってきた。その答えはここにあった。


「俺はこんな列車に乗りたかったのだ」と心の中から思った。小さな川を渡り本線とびったりくっついて走る。スピードが落ちてきた。いよいよ終点の虎石台だ、土を盛っただけのホームにすべり込むや否や一気に降車客が溢れ出た。


この時とは別ですが夏に撮った動画があります。