自炊旅館
かつて湯治宿では自炊が基本であったが、次々に観光旅館へと姿を変えた。
温泉街には通常の旅館の他に、自炊旅館が存在する。
これは、宿泊場所を提供するだけでその他のサービスを省くことにより、湯治のために長期滞在できる旅館のことである。
「湯治」目的を除けば、外国でのコンドミニアム、あるいは日本の短期賃貸マンションに似ている。

温泉街には歓楽的なものと古くからの湯治場と二つの場所があり、湯治場には温泉病院や自炊旅館がある。自炊専用旅館でなくても、普通の旅館に「自炊部」を設けている旅館もある。

自炊旅館は旅館部屋を賃貸アパートのように貸し出すが、1泊単位で宿泊料金が決まっている。宿泊期間は個人差があるが、大抵1週間以上から長くて2ヶ月程度である。

入浴料と電気代は宿泊料金に含まれているが、それ以外の布団貸し出し料(布団持込の場合は不要)、冬季ならコタツ、ストーブなどの暖房器具貸し出し料、炊事用にコンロ利用のためのガス代を徴収される。

滞在中の部屋の掃除は行われないので、宿泊者自身で行う。洗濯は館内にあるコイン式洗濯機を利用する。

旅館には館内に売店があり、調味料や缶詰などの食料類や石鹸や洗濯洗剤がおいてある。
肉・魚・豆腐などの生鮮食料品は外部の業者が移動販売に来るのを利用する。

大分県別府市の「鉄輪(かんなわ)温泉」では「貸間旅館」と称し、一般の旅館に近い部屋やサービスがある例があり、また低価格の公衆浴場を利用することや、「地獄蒸し」という温泉の蒸気で食物を蒸す名物料理が楽しまれている。老若男女に親しまれているシステムである。
温泉旅館は季節変動もあり、もともと高収益な事業構造ではないが、施設・設備の更新競争・大型化のため、借入を重ねてきた。エージェントもそれを推奨してきた。
また、金融機関も地域の有力な地場産業として貸し込んできた。このため、一般に借入過剰となっている。

『東洋経済オンライン』の記事(2025年4月20日)によると、京都などの観光地において「1泊2食付き宿」に宿泊する外国人観光客は、提供された夕飯にちょこっとだけ口を付けて食べ残し、「明日からは出さないでくれ」とキャンセルするパターンが多いという。
彼らが考える「日本食」というのは焼肉、寿司、ラーメンなどであり、「1泊2食付き宿」が提供する懐石料理的なものではないからだ。
そう聞くと「日本の旅館文化へのリスペクトもなく、ワガママ三昧の外国人観光客など今すぐ日本から出ていけ!」と外国人観光客へ憎悪を募らせる方も多いと思うが、実は同様の声は日本人観光客からも挙がっている。
例えば、群馬県の伊香保温泉に2024年11月にオープンした「楓と樹」(ふうとき)は、温泉街を一望できるテラスやルーフトップバーなどを備えているが、食事は朝食しか付いていない。

『日本経済新聞』の記事「草津や城崎温泉、素泊まり拡大 旅先の夕食は街ごはん」(2025年3月1日)によると、草津温泉や城崎温泉などの有名観光地で、「夕食に好きなものを食べたい」「食事時間の制約を受けたくない」という客のニーズが高まっており、宿側も人手不足の解決策として「素泊まり型施設」が相次いで開業しているという。
公式Webサイトでは以下のように記載している。
「画一的な『旅館メシ』からの脱却と、みんなでわいわい楽しめる食の空間創りを目指して私たち楓と樹は、メインダイニングを『焼肉レストラン』としてクリエイトいたしました」(楓と樹の公式Webサイト)
つまり、宿泊客の中で「焼肉」を食べたい人は館内のレストランで食べるが、それ以外の食事を求める人は温泉街に繰り出して、地元レストランで好きなものを食べてください、というスタイルが増えているのだ。






